6歳の女の子と4歳の男の子の母、しほちゃん。10年近く前、知り合った当時から 「無闇に笑わない人」 というイメージがありました。愛想笑いをしないから、笑ってるときは本当に楽しいんだなと信頼できる。そんな彼女も幼稚園の保護者会会長をつとめたこの一年間は、仕事を円滑に進めるため、 「すごくヘラヘラ笑ってた」 (本人談)そうです。ぐっときます。
また、しほちゃんといえば絵を描く人。彼女のテンペラ画は作品展に出品されたり、イタリアンレストランの壁を飾ったりもしています。今日はエミのリクエストに応えて、下地塗りを実演してくれることに。滅多に見る機会のない絵を描く現場に、興味津々で始まるインタビューです。
◆『何を』描くか、だけでなく、『何に』描くか
(卵を精製水で溶いたものと顔料を指で混ぜ合わせて色を作り、指で塗っていく。サーッ、サーッと軽快に板に指を走らせる。今回は青。卵水と混ぜると、明るい水色に。)
―――やっぱ卵の色もちょっと出るんやね。
うん、乾くとまただいぶ色が変わるよ。
―――なんか楽しそう~。
やろ~? 楽しいよ~。あ、ちょっと(絵の具の量が)足りんかったかね。今、ムラになっちゃってるけど、5-6回重ねていくと均一になる。
―――下塗りだけで 5、6回?! す、すごい!
でもほら、こんな感じで、1回1回は速いから。
―――まあ、この絵はそんなに大きくないけど、大きいサイズだったら大変。
この板も、最近、自分で作ってるんだよ。
―――は?!
東急ハンズで板を買うのね。市販されてるものと違って、自分の好きなサイズに切ってくれるんよ。で、サンカクヤとかで生成りの綿を買って、膠(にかわ)で貼っていく。ここまでがけっこう時間がかかってね~。(子どもが寝てるときなどに)ゆるゆるやってるからなんだけど、1か月くらいかかるかも。4-5枚、まとめて同時に作るんだけどね。キャンバスに下地を塗れば、それなりにすべすべにできるんだけど、木に描き始めると、やめられないんだよね~。
―――塗り具合が違うと?
うん、しみこむね。状態の良い肌みたいな感じ。
―――うわ~。「何を」 描くかって考えるのは当然わかるけど、「何に」 描くか、っていうこだわりは、想像つかんかったな~。
最近、素材や下地にこだわりすぎて、描く絵が委縮してるような気がするんだけどね。バターナイフみたいなので、うあああーーーっ!て描く絵もあるんだけど、「テンペラ画はそういうんじゃない」って教わったってのもあったりして…うーん。いま、試行錯誤中。
―――それも必要な道っていうかステップのひとつなのかもね。そこを通り越したらまた何か変わってきたり。
(下塗りや、描き途中の板たち。いろんな色、いろんな段階があって面白い。どんな絵が完成するか楽しみ。小さいのは「端切れ」のようなものらしい。このサイズもかわいい。
「小さい方が飾りやすいってのはあるんだよね。これをいくつも使って連作にするのもいいかも」と、しほちゃん。)
★
◆「人に何か次にしてあげたいことを考えていると、自分がしたいこと、何を好きかわかる」
―――事前アンケートの回答を見せてもらって驚いたのは、「人に何かしてあげたいことが…」 のくだり。1年間、幼稚園で保護者会の会長をやり終えたばっかりで、いろいろ気苦労もあったみたいだから、「人のために」 やることなんてもう当分ごめんだわ、ぐらい思ってそうなもんなのに。会長のお仕事の疲れは、もう消化した?
いやあ…まだ自分の中では終わってないね。卒園式の次の日から神戸旅行に行って…
―――え、ママ友とふたりでターナー展を見に行ったやつ。あれ、卒園式の翌日やったと?!
そう(笑) 逃げるように(笑)
―――すごい。芸能人みたいやね(笑) (中谷美紀がすごく過酷な『嫌われ松子の一生』の撮影が終わった直後、インド旅行に飛んだという話を思い出した)
神戸では、絵を見るのももちろんだけど、カメラを持って行ったり、たくさん歩いたり。普段しないことをたくさんやって、本当にリフレッシュしたんだけど、それで吹っ切れるわけじゃなくて、帰ってきたらまた悶々として。春休み中、次に進みたいんだけど、自分の中になんか宿題が残ってるような感じ…。まだ、大変だったことも記憶に残ってるからね。
でも、ママ友に「おつかれさまやったね」と言ってもらったり、夫の母が 「何でも最後は自分が決めないといけない仕事だから、孤独だったよね」 と言ってくれたりもして…
―――孤独、かぁー。
(会長在任期間中)夫にも愚痴ったことがあってね。でも、こんなんじゃいかんよね、と思って 「こういう経験をプラスに変えていかんと…。こういう孤独を味わえるのも、この仕事の醍醐味だよね、ていうか頑張ってる証拠だよね」 と言ったら、
夫が 「仕事ってのは、孤独が怖いからやるんであって、だから、しほこは孤独じゃないね」 って。
―――んー? どゆこと?!(みなみくん、社会学専攻出身で難しい本とかいろいろ読んでるからか、言うことが難しいニャー)
つまり・・・・・(以下、説明)
―――ほうほうほう。
ふつうは、仕事をすること、イコール、人や社会と繋がるから、孤独じゃなくなること。今、仕事をすることで孤独を感じるなら、君にはもともと、仲間がたくさんいて、孤独とは無縁の人間なんだってこと・・・
みたいな意味・・・かな・・・・? うん、わかるような。
私が 「わかってもらえてない気がして、寂しくてね」 なんてこぼしたら、夫は 「またまた~友だちがいないふりして~」 とか言う(笑) でも、そういうのに救われたりね。今もまだ、少しずつ、少しずつ消化してるところかな。
―――「人に何かしてあげたい」っていうか、「人とかかわりたい」 気持ちも既にあるぐらいだからね。完全に凹んでる状態じゃないもんね。
前向きな気持ちって、また別のところから湧いてきたりするやんね。ずっと好きでやってきたことは、やっぱり続けていこう、とか。
―――人に何かしてあげる、はたらきかけるには、自分の内面が充たされてないと難しいのかな、って思うんだよね。自分の中身がからっぽだったら、あげるものがないからね。
しほちゃんの場合、絵を描いたり音楽を聴いたりすることで、いつも自分の中身がプールされとるんかな。
あるかもね。会長を引き受けてからも、何もやめないって決めてたし、実際やめなかった。絵を描いたり、ウクレレバンドのライブしたり…。本は読めなかったけど、新聞は読んでた。
―――逆に、好きなことがないと、やってられなかったかもね。
そう! あと、幼稚園のおたよりとかに、いつも自分でイラストを描いてたんだけど、あれは本当に勉強になったし、楽しかったー。
◆「兄妹3人そろうと、「濃いな~」って思う(笑)」
――― 「働かずに絵を描いて暮らしたい、音楽への憧れからアメリカに行きたい、とばかり考えているような娘だった」 ってアンケートに書いてあるんだけど…けっこう、夢見がちというか、ドリーミングな少女だったんだねえ。
うん。兄たちが親がわりというか、しっかりしてたからね。高い壁のような…
―――好きな音楽とか、絵とか、そういうのにもお兄ちゃんの影響ってある?
音楽はほとんど下の兄だね。小学校ぐらいのころBON JOVI聴いて、メタル、L.A.ロック、グランジ…で、結婚して(夫の影響で)日本人のロックも入ってきて。はっぴいえんどとかね。あと今はジャズとかも。ま、影響されやすいっちゃんね。
上の兄は、自分と似てるんだよね。絵とか、書く字も似てる。みみずが這ったような字(笑)。で、親がわりだから、高校出たあと 「専門学校に行きたい」 って言ったら 「おまえ、つぶしがきかんけん、やめとけ」 って言いつつ、こっそり専門学校を下見に行ってたり。
―――それはすごいね。ほんと親みたい。いくつ離れてるんだっけ?
上の兄とは、5こだね。下とは3つ。
―――じゃあ、しほちゃんが17~8のころ、お兄ちゃんは22~3やろ。それで、妹の進学先の下見ってすごい!
すごく大人に見えてたんだけどね~。で、(やりたいことをやらせてくれないなんて)「なんてひどい兄貴なんだ」 とか思ってた。まさに親の心、子知らず状態で。
―――お兄ちゃん同士は仲良いの?
うん。本人たちはそうでもないふりしてるけどね(笑)。会えば飲みに行ったりしてるみたいだし。たまに兄妹3人集まると、「濃いな~」 って思う(笑)。
―――本も読むの好きだったんやろ?何読んでた?
スタンダールとか。サリンジャーとか。
―――へぇーっ。国文科って聞いてたから、意外な答えかも。
気に入った文章を紙に書いて、壁に貼ったりね。どういう意味か、わかってなかったかもだけど(笑)。
―――や、誰もが通る道よ。堺雅人がエッセイで、「どうして女子は一定の年になると、ポエムっぽいものを書き始めるんだろう?」 って書いてたよ。そして 「女子はいつ、ポエムを書くのをやめるんだろう?」 って。
―――(ちひろ) それは大人になったとき…(笑)。や、内々を見つめる時期って、大事よね。入り込んだときって楽しいしね~。
―――うん、中2病は中2に近い年代にしっかり患っておくべきなんだよ(笑)
確かに、独身のころのしほちゃんって、「自分の世界をしっかりもってる人」 ってイメージだったんだよね。絵とか音楽とか。でも、それって、どっちかというと、内向きのベクトルでの活動だよね。
だから、ここ数年、外向きに活動的なしほちゃんに、最初は、ちょっとした驚きがあったよ。ママ友を誘って 「○○部」 みたいな活動始めるとか。それこそ会長引き受けたりとか。「こういうところもあったんだ」って思った。昔からリーダーシップとかあったの?
いや~。高校のころとか、ほんとに友だち少なくてね。本に、「友だちがいなくて淋しいときは、自分のしたいことをしなさい」 って書いてあるのを読んだことがあって、それをずっと続けてきた気がする。
ひとりで好きなことを続けてきて、「まあ自分はこんなもんだ」、「絵しか描けない」 って思いながら大人になって。そしたら、短大で良い友だちができたり、結婚してくれる人も現れたりして、ひょっとしてOKなのかな?って思って誘ってみたりするわけさ。そしたら、あれ?嫌じゃなさそうだな、と。
「じゃあ、もっとこういう曲好きじゃない?」 とか。DJにたとえるとね(笑)。で、曲かけていくと、「こんなのいいね」 って言われたり 「CD貸して」 って言われたり。そういう感じで、だんだん楽しくなってきてね。
ほんと、若いころはね、悶々としてた。絵だって誰かに見せたくて描いてるわけじゃなかったし。ひとりで描いて完結。でもいつからか、見てほしいなあと思うようになって。やっぱり、友だちができたら、「あの人に見せたら、なんて言うかな?」 って知りたくなってね。
―――ちょっとずつ変わっていったんだねえ。
★
◆ダンナさんに与えてきた影響は?
―――ダンナさんからの影響をすごく自覚してるしほちゃんだけど、逆に自分がみなみくんに影響を与えてるところってどんなとこだと思う?
ええ?! わからん! ちょっと待って、トイレ行きながら考えてみる。
・・・・(戻ってきて)うーん、子どもたちという才能をあてがったことかな。「ハイ」って(笑)。
―――ほーう。予想外の答えだわー。
しんちゃんだけじゃできないでしょ。
―――まあねえ。
それぐらいしか思い浮かばんねえ。
―――たなかまさん(註:共通の友人)がね、ずっと前に、しほちゃんのこと、「大地に根を張ってる感じ。生命力の強い人」 みたいに言ってたのがすごく心に残ってて。みなみくんって、結構ふわっとしてるっていうか、そういうところが弱い気がするから…(しほちゃん、ちひろ、エミ、3人で爆笑)。
や、ごめんね。イメージだけど。だから、しほちゃんのそういうところは、すごく有難いっちゃない?
あー。それは 「補ってる」 ところだよね。補う部分は、いろいろあると思うよ。でも、それって、影響を与えてるわけじゃないような。そのことで、彼が変わったかっていうと、そうじゃないけん。
影響は、やっぱり、子どもぐらいしかない気がする・・・私はこんなに影響受けてるのにと思うと、なんかこっちも、それぐらい(彼に与える影響が)あればいいのにと思うけど。
―――(ちひろ) や、みなみくんはね、しほちゃんに、絶対憧れをもってると思うよ!(力説)
★(終)
[編集後記]
エミ(インタビュー): 事前アンケートの回答だけで立派な記事が作れそうなほどに、たくさん回答書いてくれたしほちゃん。あれをそのまま公開したいほど面白かったよ(笑) 当日も踏み込んだ話をたくさんしてくれて、絵の実演もしてくれて、ほんとにご協力に感謝感謝です。この春、ひとつの節目を迎えたしほちゃんが、これからどんな方向に向かっていくのか楽しみです♪
橘 ちひろ (写真): 撮ってみてから出来上がりを見ると私の持っていたしほちゃんのイメージとまた少し違う事に気付きました。ずっと知っているのにこんなことってあるんだ・・・面白いなぁ。
とにかく被写体力抜群!インタビュー最後の私の割り込み「絶対憧れだよ!(力説)」とは自分の気持ちかも(笑)
気になる志保ちゃんの絵は次回、絵画が飾られているイタリアンレストランにて座談会を催す予定なのでその時に!
撮影の反省点は・・・あります!ピント!意地を張ってのMFはもうやめようかな・・。あ、また今度撮影日記で書きます。(えーん!!泣)