“ママじゃない私” ポートレート

いつものあなたの、いつもと少しだけ違う顔。いろんなママたちの、「ママじゃない顔」ポートレート。

vol.5 ニコラン・コランの 「ママじゃない私」 ポートレート

       

     

 

当初、「自作のお人形と一緒に自然の中で撮影したい」というご希望だったので、エミもちひろも、事前にはりきって南公園などロケハン(笑)していたのですが、当日はあいにく大雨…。お仕事の合間を縫っての取材だったため日程に猶予はない! 絶体絶命のふたりに、「じゃあウチに来る?」とニコランさん。あ、あ、ありがとうございます~! てか、おうちのあまりの素敵さに悶絶してた2人なんですけど!! それにニコランさんたら、20歳の息子さんがいらっしゃるだなんて、お姿を見ただけでは、にわかに信じ難いとお思いになりませんこと?みなさん!

 

人形劇、すごい完成度! すごい存在感

 ―――人形劇「ヤギとパン屋のおかみさん」のライブを you tubeで見まして。

 

     

 

本当に面白かったです!! 怖かった~!

あれ(おかみさん)が私ってわけじゃないからね! ああいうキャラクターだから。

―――あ、それはもちろん(笑)。とにかく、作品としてすごい完成度で、びっくりしました。人形といい、お話の起承転結といい・・・ヤギくんの人形を使って演じてた方も上手だし、「ご主人」役をやってた、ニコランさんの実のご主人(笑)も、バックでBGM弾いたり、ごはん食べてるときはお皿がカチカチっていう音出したり、本格的で・・・相当、3人で練習されたんですか?

前作では、2回。今回は、1回しかできなかった。「ま、いけるね」って。

―――脚本は全部ご自分で書かれてるんですよね? 演出面は?

私が「ここ、怖い音、入れて」って(ご主人に)お願いしたりするんだけど、なんか練習のときと(本番では)全然変わってたりするの。でも、なんせバックのふたりは、ライブ慣れしてるから、安心してまかせてるので。本番の時のほうが、「うわーーーっ!」て感じがあって、いいよ。

―――うんうん、そうですよね。でも、ニコランさんの存在感もすごかった! 音楽でもなんでも、舞台に立つ人が緊張して恥ずかしそうにやってると、見てる側もなんか恥ずかしくなっちゃうじゃないですか。ニコランさんは、中央で、すごく堂々と演じられてて・・・演劇経験とかがあるのかな?って思いました。

ライブの他の出演者にも、「声優か何かやってた?」って言われたけど。ないよ、全然。そう言われて、「こんな素人でもやっていいんだな」って思えたよね。あ、息子が小さいころ、毎晩、絵本を読んでたからかな? 声色を作ったりして。普通のことだと思うよ。みんなできると思ってた。

―――や、それは違いますよ、普通はできない(笑)。できる人には、自然なことのように思えるんでしょうけど。

私は、ニコランさんが、ご主人や、その仲間たちのライブなんかをずっと見る機会が多かったのも関係あるのかなーって思ったりしてました。表現する人たちを見慣れてるから、「表現するのは楽しいこと」って自然に思えてるところがあるのかなって。

ああ、それもあるかもしれない。あとはね、全部人形が言ってることで、私じゃないから。ひとつ、こう、舞台と客席との間に人形がいるから。だからちょっと、やりやすいってのはあるのよね。

―――あ、なるほど~! 生身の自分で演じてるわけじゃない、ってことか~。

     

(記事冒頭、you tubeのリンクを貼っている「ヤギとパン屋のおかみさん」でニコランさんが遣った人形、「おかみさん」。角度や動かし方によって、いろんな表情を見せてくれます。こんなにかわいいのに、劇のクライマックスでは・・・! )

 

 ◆身勝手な男たち、無邪気に残酷な女

―――それにしても、あの人形劇の「おかみさん」には、バチは当たらないんですかね。

残酷よね。

―――まさに、大人のための人形劇ですよね。ヤギがかわいそうで。

今回はほのぼのした、いい話を作ろうとしたんだけど、全然書けなくて。私はホラーとサスペンスしかできません、って(笑)。あれは2作目で、前作でも同じ子がヤギを演じてくれてね。その子に「今度はヤギが幸せになる話にして」って言われてる。

―――ま、ヤギはかわいそうなんだけど、ヤギも善良なわけじゃなくて、おかみさんに殺意をもってたわけですもんね。

そう。ご主人も浮気性だしね。前作でも、神と悪魔が・・・っていう事件で、おかみさんが、「男って、男って・・・!!」って、わあわあ言う場面があるのよ。

―――そう! ホント面白いなと思ったのは、今作でも、復讐に来たヤギも男、浮気性なご主人も男、悪魔も、それから神も男ですよね。悪魔はわかるけど、神様が身勝手な男ってのも、ユニーク。だから、最初におかみさんが懺悔するのは、神様じゃなくてマリア様なんですよね。

そうそう、神には祈れないから(笑)。

―――私、実は怖い話って苦手なんですよ。でも、これ見終わったあと、「面白かった~!」っていう、一種の爽快感があったのは、勝手な男たちに対峙する女であるおかみさんが、無邪気に残酷な仕打ちをする、ってお話だったからなのかな、と。

ああ~。

―――ブラックなラストのあと、エンディングテーマがかわいいのも良かった~! しばらくずーっと頭の中を流れてました。あの、「ヤギ・ヤギ♪」「おかみさ~ん♪」っていう、ヤギさんの合いの手がたまらない(笑) 

そう、あれで、「これは舞台だよ~。ヤギも大丈夫だよ~」って感じにね。ブラックなままで終わっちゃうのもなんだから。


     

 

 

◆もっとも身近な人が、自分に自信を与えてくれる 

 

―――最初に脚本をご主人に見せたときは、どんな反応だったんですか?

「うんうん、面白い」って。

―――事前アンケートで、ご主人について、「飾らず話せて、自分に自信を与えてくれる応援者」って書いてありましたよね。配偶者に対して「飾らず話せる」とか「安らぐ」ってのは、よくあると思うんですけど、「自信を与えてくれる」って、もう一段階、上だな、ていう感じがして。

うーん。いろいろ「やってみない?」って誘ってくれたり、「だいじょうぶ」って言ってくれたりってのもあるし・・・

何年か前に、一緒にタペストリーを作って。次の機会では、それぞれ一つずつ作ることになって。彼が仕事に行ってる間に、自分の作業を進めてたと。そしたら、帰ってきた彼が見て、嫉妬するように「悔しい」って。悔しがり屋の人で、すぐ悔しい悔しいって言う(笑)。いいものを見ると、「悔しいから自分も負けないようにがんばる」ってタイプの人なのね。


―――軽く本気でムッとしてるんですね(笑)。

「カチンとくる」とか言われたり(笑) でも、「悔しい」って言われるのって、すごい褒め言葉だな、って。人形をつくったときもね、「ずっとデザインの仕事してきた自分が、良いと思う、独特だと思う、って言ってるんだから」って言ってくれて。ほんのちょっとでも、そういうふうに「好き」って思ってくれる人がいるなら、やっていいかな~って思えたのよね。

―――いや~、ご主人がそんな存在って、ほんとすごい、稀有なことだと思うなあ。

うん、ラッキーだなとは思う。人形劇も、彼が「ライブでやってみない?」って言ってきたからね。

―――あ、そうなんだー。人形を作るのが好きな人はたくさんいても、それで人形劇をやろう、ってなる人はなかなかいないと思うから、どういうきっかけなんだろうと思ってました。

人形も、もともとは、とあるバンドの女の子をイメージして作って持って行ったら、その子がすごく気に入ってくれてね。すごい行動力で場所を見つけてきて「個展やりましょう!」っていうから、「じゃあ、やる」って。で、作って出した人形に買い手がついたりして。「私、そういえば自分のためのお人形を作ったことない。よし、思いきり自分好みの可愛い子を作っちゃおう!」 それが、この、「おかみさん」。

―――わー、そうなんだ~。

縁だよね~。「やらない?」って言ってくれる人が周りにいたから。なんか、なんでもそうなの。自分から、「これやろう! がんばる!」って感じは、あんまりない。すごい適当。

―――でも、「やってみない?」って言われて、「やる」って答えられるのが、そもそも、すごいなあと思います。自分の中に、形にできるものがあるってことだもん。

何か作るのは好きだし、環境的にも芸術系の大学だったから (註:みやさんは当時、日本画専攻だったそうです!) 周りもみんな、なにか描いてたり、作ってたり、発表してたり・・・そういうのに慣れてるのかもね。

      

 

◆かわいいだけじゃなく、何か「引っかかる」ものを

 

自分の作品は、芸術と雑貨の中間ぐらいがいいな、って。

―――わあ、なんか面白そうな話!

雑貨は、わぁかわいい~ってだけのもので・・・それよりは、何か意図があったりとか・・・私、毒のないものって全然面白くないと思ってる。なにか引っかかるものがないと。音楽だって、気持ちいいな~って聞ける曲でも、それだけじゃ残らない。忘れちゃうよね。

―――うんうん、なんかこう、爪を立てられるようなところが必要、というか。

何かがあるから、心に残る。そういうのを作ろうと思ってる。だから、そんなにかわいくないと思うのよね(笑)。子どもが喜んで抱っこできるファンシーな人形じゃない。

―――それが、ニコランさんの人形の味だし、そこがいいんだと思う。

以前、天神のソラリアのとこの通路に、「グループ展示しない?」って話がきて、やったことがあったんだけどね。そのときはウィンドーディスプレイ風に展示しようと思ったの。それで、考えてみると、天神を通る女の子たちって、けっこう大変なんじゃないかな、って。

自分は40代になってからすごく楽になったんだけど、30代までは、女として見られたい時期じゃないかな。お母さんだけど、まだ綺麗だし。30代だったら、20代の男の子に「おばさん」って言われるのイヤじゃん(笑)。それに、女同士の目もきつかったりするし・・・。

天神に働きに行って、メイクしたり、おしゃれしたり、いろいろ武装して、「毎日楽しい」ってわけじゃないと思うのね。あそこを通る人って、そんなにニコニコ笑って通れないだろう、と。

そういう、戦ってる天神の女の子たちが、私の作品を見て、「あ、かわいい!」って目を留めてくれたらなって。「疲れてるけど、見て、ちょっと元気出た!」とか。ちょうどバレンタイン前の時期で、そんなこと考えながら作ったの。


     

―――はあー(感嘆のため息)、面白い話。きっと、そんなふうに見てた女の子たちがいたでしょうね。さっきの、人形劇のストーリーもそうだし、ニコランさんは、どこかに「女の子たち、がんばれ! 応援してるよ」って気持ちがあるのかなあ。

あ、そうね。そうかー。

―――ニコランさんの作品って、人によっていろんな見方、いろんな感想が出てくるんじゃないかと思うんですよね。それがすてきですよね。同じ人形を見ても、かわいさを強く感じる人もいるし、怖さのほうを強く感じる人も、面白いって思う人もいそう。

―――(ちひろ) 私は、この左右の大きさが違う目を見てると、なんか自分が見透かされてるような気がする~。

 

       

     

     

 

 

◆女子、がんばって!

      

     

女の人は大変だもんね。ママだし、綺麗でいなきゃいけないし、仕事してる人もいるし、でも賃金って、たいてい、男の人のほうが高いよね。こないだ小さい同窓会があったけど、人脈にしても、社会的な力みたいなのにしても、持ってるのはやっぱり男の人。女の人は、家庭は切り回せるようになっても、たとえば、お金を引き出せるような人脈とかコネって・・・

―――ないない。それは、なかなか。

私たち、来年、学校全体の同窓会の幹事年なの。だからお金をたくさん集めなきゃいけなくて心配だけど、でも実際、じゃあ自分にお金を集めるような力があるかというと、ない。結局、自分が口を出すところじゃないのよね。これは女子のつらさだー、って。

―――あー、ありますね~。まあ、男性は男性で大変なことはあるんだろうけど…。あ、じゃあ、アンケートに「子どもをもってからは自分で縛りを作っていたみたい」っていう回答があったのは・・・

あ、それはね。ママとして。私、子どもが学校とかでいない間は、ランチしたり、好きなことしたり…みたいに“ママ”をとっぱらってもいいんだけど、たとえば子どもを置いて飲みに行くとか・・・そういうのを良しとしてなかったのね。自分で。

―――あ、なるほど。

でも、今思えば、そういう縛りはなくてもよかったのかな、って。

―――まあ、程度問題っていうか、子どもがいる以上、ほんとのほんとに放ったらかしにはできないですよね。「縛り」って言葉が適当かどうかわからないけど、実際、いつでも好き勝手に出歩けるわけじゃないし。

うん。ただ、「なんかやっとけば」っていうかね。・・・「逃げ」でもあった気がする。「私は子どもがいるから、主婦だからできない」っていう。

―――あっ! それもわかる気がする! やらない言い訳にしちゃうんですよね~。

だから、ふたりにも、がんばってほしいと思うよ~。仕事するのもいいと思うし。こういう趣味も。今、ふたりで一緒にやってるけど、自分ひとりでも続けるってのが大事なんじゃないかな。バンドとかでも、相手の都合で解散しちゃうとかあるじゃない、引っ越しとか、子どもができたとか。そこで辞めちゃわない、ってこと。音楽だって写真だって文章だって、ひとりでもできる。続けてたら、また新しい出会いがある。がんばってね。

―――ありがとうございます!!


★(終)

     

 

 

[編集後記]

エミ(インタビュー): ご主人ことサニー兄さんを通じて10年ほど前から存じ上げていたんですが、お話しするのはほぼ初めて。ちひろ氏は正真正銘の初対面。なのに本当に優しく、気さくに、そしてすごく深みのある話をしていただいて、感激でした! こうして文字に起こしたものを読み返すと、あの時間の濃密さ、充実感が蘇ってくるのですが、読んでくださるみなさんに、その片鱗なりとお伝えすることができているでしょうか。ニコランさん、きっとまた、お会いしたいです。
追記: 最後の写真のアダルトなひまわりは、「雨天で、家での撮影になるかもしれないから。」と、ご主人が買ってきてくださったそうです。何そのスマート&センス!!! 狡いくらいかっこええじゃないですか!!

橘  ちひろ (写真)  : 素敵な二コランさんとお人形達、そしてその生活空間!調和が本当に素晴らしかったです。ってか二コランさん美しすぎる!!「修正よろしく!(笑)」っなんて言われていたけど、そのままで十分すぎますよ~!
インタビュー中にお人形を撮影していたのですが、ふと、「ん?目の合う位置がある?人物写真みたいに斜光あててみたらどうだろ・・」っと、ソファーに置いたり窓辺に置いたり・・・気が付けば夢中でシャッターを切っていました。ちょっとした向きや手足の位置動かすだけで全然表情が違ってくるんです!