vol.1 橘ちひろ の 「ママじゃない顔」 ポートレート
―――じゃあ、今から録音しまーす。なんか、あらためて、ってやると緊張するけど。
ね。
―――ちひろちゃんとは元から友だちだから、母親になったからってそれほど変化を感じないというか。私は、純粋なママ友(子どもを介して知り合った)の中にいるちひろちゃんは見たことないんだよね。
あー。そういえばそうだね!
―――やっぱり、違う? 昔からの友だちと一緒にいるときとは。
声のトーンがいつもより高かったりするよね。
―――わかる~。妙に笑顔を絶やさなかったりとか。
付き合いが進めばだんだん素になっていくけどね。
―――もともと、あんまり群れるタイプじゃない感じがするけどどう?
あー。中学高校とかは、そういうことに、ささやかな反抗心があったよ。トイレは絶対ひとりで行く、とか。
―――そうなんや!!
ま、行こうって言われたら、ちょっとうれしいもんで、一緒に行ったりして
―――そうなんだ笑
でも、群れるか群れないかって、自分が好きな感じの人たちがいるかいないか、付き合い方ができるかできないかも大きいよね。大学に入ったとたん、好きな感じの人たちがすごく増えて。すごい仲間意識があった。そこからは、サニーサイド関係(註:エミとちひろ共通の友人たちがやっていたロックバンド)も、すごくつるんだと思う。
―――いい感じの付き合いができた経験があれば、人付き合いそのものに対してポジティブになれたりするよね。新しい場所にも、前向きな気持ちで入っていけるというか。
そうねー。相手の好意を感じるとうれしいしね。
―――ずっと共学?
うん。
★
―――考えてみれば、私たち、昔から友だちだったけど、仕事の話とかほとんどしたことなかったよね。
基本、ずっとフリーターだったからねー。けっこうカツカツで生活してた。子供向け写真館のアシスタントもしたけど、気も利かんし、子どもも苦手でねー。てか、写真を撮るために子どもの笑顔を引き出すことの価値が分からんかった、当時はね。
―――私も、20代前半のころは、友だちに子どもができたって聞いても、「うわ、大変だなー。育児とか私には無理」って感じしかなかった。子どもがいる今は、よそのお子さんも怖くないし(笑)、かわいく見えるし、普通に話せるけどね。そういうとこは、変わるよね、やっぱり。
うん。やっぱり結婚したり…その前に、保育園で仕事したころぐらいから、落ち着いたってのはあるね。なんせフリーターやったけんね。
―――経済的な面で安心したってこと?
それもあるし、地盤がしっかりしたっていうか。それまでは、親に心配されても、「健康だし、バイトもいくらでもあるし、何が問題?」て思ってたけどね。
―――焦りはなかったんだ。
や、実は、あったんやろうね。当時はわからんかったけどね。
―――まあそれが若さの特権よね。10年後のこととか考えんしね。逆に、子どもをもったことでの不自由さもある?
今まで遊んでた友だちと会いづらくなったりとかねー。夜、遊びに行けないとか。最近になってちょっと思い始めて。
―――最近?(あなたの子どもちゃんは現在3歳4か月よね?)
遅いよね(笑)。それまではあんまり思わんくて…。夜、飲みに行けなくても、昼、飲めるママ友たちがおるけん、いいや、とか。けど、半年ぐらい前に、『もう夜遊びする』って決めて。娘も夫と過ごせるようになったし。・・・と言っても、ほんの時~々だけど。ライブとか見に行って、「やっぱり生音はいいな~!」って。
―――ライブとかでも、あたりまえに行けたころより、余計に感動できたりするよね。てか、「私いま夜遊びしよる!」ってこと自体でハイになってしまったりする。
★
―――今、子どもや家族のための時間と、自分の時間って、どれくらいの比率?
おお! 気持ち的には半々ぐらいじゃないかなー。今年に入ってからは、カメラを手にして興奮し続けてるってのもあるけど。Twitterとかも好きだし。
―――私もTwitter大好きです(笑)。半々だったら、けっこう自分の時間、多いよね。満足できとる?
うん。自分の時間の中でも、半分くらいは、ぼーっとネット見てたり、だらだらしてるというか、そこが変わればもっとクオリティは高められるやろうけん、これ以上(半分以上)とは望まないかな。
―――でも、カメラ(デジタル一眼レフ)を買おうと決めてからの情熱はすごかったよね! てか、逆に、ここまで情熱的なのに、なんで今まで(写真を撮ることを)中断してたのか、不思議なくらいなんだけど。
自分でもそう思う。
―――ライブハウスで会ってたころは、バンドの写真とか撮ってたよね?(10年近く前)。急にやめたの?
急にじゃないけどね。そのころは、もうね、いいなと思える写真は撮れてなかった気がする。
―――なんか、ヤなことがあって、撮るのやめたと?(おそるおそる)
いやいや。写真が仕事だったころもね、スタジオの雰囲気とか、そういうのはすごく好きだった。
―――結婚したりして…撮らなくても充足するようになってたってことかね。
ぬくぬくはしてたかも。結婚したことで何かと安定して、子どもができてミシンやインテリアにはまったり…それなりに楽しかったけど、でも、気にはしてた。ずーっと。私は一番好きな写真やめちゃったんだ、みたいな。
―――ちょっとした挫折感みたいな?
そうそう!
―――でも、ちひろちゃんを見てると、いつからか、すごく前向きに自分の人生を楽しもうとしてるな、って感じてたよ。なんかインテリア系の講座を聴きにいったりしてなかった?
そうそう。それはね、部屋の照明が、人にどういう影響を与えるかとか…。やっぱり、『光』に興味があったんだよね。写真を撮る時の光と同じ関心というか。結局、戻ってきたのかなーとか。大げさにいうとね。
―――時間をかけて、そういう段階を踏んだからこそ、挫折感みたいなのが消化されていったというか、素直にカメラに戻ってこられたのかもしれないね。
ほんと。好きなことに夢中になれるありがたさ、みたいなのも感じるしね。
★(終)
[編集後記]
エミ(インタビュー):子どもらがギャーコラ言ってる中で、しかも飲みながら敢行したんですが、いろいろ聞きだせて、しかも何となくうまく着地してる。奇跡~。ちなみにダンナさんについて聞いてみたところ、
「精神安定のため、いてくれなきゃ本当に困る人。でも、いつかはいなくなっちゃいそうな、はかないイメージ?笑・・・長生きしてほしい」
だそうです。ちひろさんは家の中ではとても頑固なのだそうです。わからんようで、わかる気がする。
橘 ちひろ(写真):今回、初の自分撮りをしてみました。一人、カメラの前で真面目な顔したり笑ったり(笑)思ったより自分のシワが好きでした・・・でも光で飛ばしておきます・・ふふ。