“ママじゃない私” ポートレート

いつものあなたの、いつもと少しだけ違う顔。いろんなママたちの、「ママじゃない顔」ポートレート。

個展終了! 南志保子さんに一部始終を聞いてきました。

 

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  (みた夢は、遠くない地   2015年  300×450mm)

2015年8月17日~8月23日
アクロス福岡2Fメッセージホワイエにて
『南志保テンペラ画 初個展
   ~花・テーブル・サイロの差し出す色と唄声~』

さる8月、上記のとおり、南志保子さんの初めての個展が開催されました。12年間の作品たちから選ばれた24点によって、アクロス福岡の開放的なスペースが彼女の色に染められました。用意していた芳名帳が足りないくらい、たくさんの人が見に来た7日間。このビッグ・プロジェクトを終えた今の気持ちをぜひ聞いておきたい! 陽気も秋の色濃くなった9月のある日、ランチしながらのおしゃべりです。



◆そわそわしすぎてぐるぐる回ってた

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7日間、よく無事に終わったなー、と。

―――ほんと、おつかれさまでした。

始まる前は、会期中はお祭りみたいな気持ちかな?って想像してたけど、お祭りっていうよりね、なんかすごい感動した。ずっと感動してた。

―――みんなが足を運んでくれたんだもんね。自分のために…。結婚式以来ってぐらいじゃない?

ねー。ほんと、やってよかった。全然知らん人が「すごい面白いね」って言ってくれたり、「まだ若いからこれからがんばってね」とか。ほんといろんな人が来たね。

―――会期中、子どもをどこかしらに預けて、ずっと会場に詰めてたやん。大丈夫だった?

うん、友だちがみてくれたり、しんちゃん(ダンナさん)が休みをとってくれたり。みんなにお世話になって。一週間あったから、子どもたちも「ママ、また行くと?」みたいな感じもあったりしたけど。

―――自分も、子どもと離れるのは淋しいやんね。

そうなんよ、実家に泊まりに行かせるとき、2日間会えんくなるけん、たくさんぺたぺた触って別れたんだけど、自分がちょっと泣きそうやった。

―――そうだよね~。でもそこまでやっただけのものは得たんじゃない?

得た、得た。これまでも共同展はやってきたけど、全然違うね。何から何まで全部自分でやるっていうのは。ほんと、最後の日の残り3時間ぐらいのとき、ちょっと黄昏れてたもん(笑)。「もうこんなに(自分の絵が)並ぶことないな」って思って。

それで、終わって外に出たら、空がすっごく綺麗で。うわーっ、てなって。そのあと、たまたま友だちの結婚パーティでライブハウスに行って、音楽にまた感動して。「もっともっと大きい音でもいいよ」ってぐらいにスパークしてた(笑)。


―――すごい高揚した精神状態だよね、やっぱり。

で、「すごく感動したんだよ」って話を聞いてくれる友だちとか、近しい人がいることがまた感動でさ。「よかったね」って、みんなほんとに自分のことみたいに喜んでくれて。恵まれとうね、と思った。

―――初日の前の晩は眠れんかったらしいやん。

そうよ。でも予報が大雨で、「これ、今日は誰も来んな」と思ったらちょっと落ち着いた(笑)
その前からそわそわしてる日々で、下手に出かけて事故ったりしたくないけん、出かけない。近場だけ。夏休みの前半は子どもとプール行きよったけど、個展前は絶対行かなくて(笑)。


―――泳ぐのは危険を伴うけんね(笑)。

本も頭に入らなくて全然読めんけんさ、ピアノをずーーーっと弾いたり。前日とか、そわそわしすぎて家の中ぐるぐる回ってた

―――そのそわそわは何なんやろ。緊張?

緊張と、不安と。飾ってみてないから、「ほんとにこれが展覧会として成立するのかな?」っていう不安。バランス悪かったらどうしよう? 自分はいいと思って描いてるけど、果たして人はどう思うんだろうか? とか、いろいろ考えて。でもやってみらんとわからんけん、することもなくそわそわしてた。

―――そうよね、もうできることはないんだもんね。

それこそ、会期中に着る服とかも全部決めてしまってさ。

―――えええ、すごい! でもなんかしほちゃんらしい(笑)。



 

◆自由に見てほしい、好きに言われていい

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 (  silo pink   2013年  100×148mm)


―――そんな不安を吹き飛ばすようにお客さんいっぱい来て、よかったよねー。

アクロス福岡ってやっぱり通りすがりの人が多くてね。よくコンサートとかもあってて、終わったらバーッて人が上がって来るんよ。ほかには、広報してもらってたけん、新聞を見てきたとか、ラジオ聞いていたとか。「テンペラ画」っていうのがアンテナに引っかかって来る人もおるとよ。「すごくいいね」って言ってもらって、名刺をいただいたり。

―――絵について言われたことで印象的なこととかあった?

たくさん言われたのは、「優しい色やね」って。「私は色にはうるさいのよ」って言ってた女性が、「中間色の使い方が面白いね」とか。

―――すごい的確な感想だね。わかる。中間色、しほちゃんの絵の特徴かも。

それが「優しい」と言われるとこかもしれんね。あと、いろいろ聞かれるのが面白かった。これは空なのか、海なのか? ギターか、マンドリンか? 竜?とか言われたりね。小学生が、「これは悪魔の後ろ姿だ!」って言ったり(タイトル「チカチカ」、山のようなフォルムが描かれた絵)。

―――しほちゃんの絵って、老若男女問わず、誰にでもすーっと見れる、入ってくる絵だよね。

自由に見てくれるとうれしい。「こんなんどこがいいと? 俺でも描けそう」って言ってる人もいたよ(笑)。待ち合わせた仲間たちとダベりながら見てた若い人で、作者の私がいるとは思わずに言ってたんだろうけどね。

―――あー、絵に対してそういう感想述べる人いるよね。描けやしないんだろうけど、実際には。

いいと、いいと。好きに言ってくれて。あと、「絵の題名がわからん」とか(笑)。

―――あ、私はそこが好きよ。しほちゃんの絵って題名と合わせて見ると、二度面白い。言葉のセンスとか、組み合わせとかも芸術家だなーって感じがするよ。「ポプラ走」とか「ゆたかな芽吹き」とか。「みた夢は、遠くない地」みたいなドラマチックなタイトルも好き。



 

◆絵の変化。勉強して、表現が広がった 

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 (音楽   2006年 F10  530×455mm)

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 (唄ってるような夜空みたいに君が好き  2011年 SM   227×158mm)

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多肉植物 居候  2015年  SM   227×158mm)


―――今回、描いた時系列で、横一列に展示しとったよね。しほちゃんの12年の歩みを感じたよ~。

やっぱり変わっていってるもんね。

―――若いころの絵は、しほちゃんの渦巻く内面が荒々しく表現されていて、圧倒されてさ(笑)。

若いころは、ガーッて描いてるもんね(笑)。テンペラ画を始める前は油絵を描いてたんだけど、それこそ誰に見られなくてもいいと思って描いてた。ほんと自分のためだけに。

―――ここ3、4年の絵は、より柔らかく穏やかなイメージもあるんだけど、それってつまり「幅が広がった、器が大きくなった」ってことかも。見る人に、より自由に、いろんな受け取り方をさせてくれるようになった気がする。

たぶん、その境目でね、大阪に絵を習いに行ってるんだよね(笑)。

―――そうそう、泊りがけでね。

去年も東京に、テンペラ画の大家の先生に習いに行ったんだよ。金箔の貼り方とか、古典技法とか、保存方法とかも。額装はちゃんとせないかんね、って思ったり。

―――いいね、そうやってしっかり習っておくと。

やっぱり、技術が足りないから表現できないっていうモヤモヤがあるんよね。勉強して知れば知るほど、表現は広がるんよ。

―――勉強することでもっと自由になるんだね。

若いときの「勢い」的な自由さはちょっとなくなるんだけどね(笑)。

―――でも、表現が広がれば広がるほど、私たち見る側の「自由」も広がるよね。絵を見る楽しさってそこにあるんじゃないかと思う。
絵には作者の思いが込められているけど、それをどう感じ取るかはそれぞれの自由であってさ。絵を見てるときって、自分の心がすごく自由になる感じがするんだよ。その感じがすごく気持ちいいと。

「いいものを見せてくれてありがとう」って言ってくれるんだよね、来てくれた人が。いやいや、こちらこそ、「来てくれてありがとう」なんだけど。

―――わかるよ。日常に追われてると、自分の心を自由に解き放つ時間ってなかなかないからさ。自分の感性にまかせて絵を見ることで、なんかすごくスーッとして、明るい気持になる。「こんな絵を描いて、こんな気持ちを味あわせてくれてありがとう」って言いたくなるよ。仕事や育児で忙しい私たち世代には、すごくいい機会だよね。

「私が描いてるって知らなかったら絵を見に行くこととかほとんどない、テンペラ画っていうものも知らなかった」ってママ友もいるもんね。そういう人にも「ありがとう」って言われた。


 

 

◆その人の大事な思いを受け取って自分の中に入れる

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  (あやこのPupe  2015年  SM  158×227mm)


最近、ありがたいことに、絵の依頼をいただくんだよね。

―――うんうん。

私、もともとは、そういうのしたかったわけじゃなかったんだ。自分の描きたいものを描いてきたけん。

―――そうだよね。

「描いてほしい」って言われるものは、その人が大事にしているもので。

―――依頼に応えるって難しいよね。その人にとって「大事なもの」でも、しほちゃんには知らないものだったりするわけで。

そう。でも、“私もそれを好きになる”っていう作業をしてから描くと、うまくいくなって思って。
こないだの鳥の絵も、依頼主さんから思い出話を聞いたりして、思いをふくらませて・・・今までで一番思いを込めて描けたっちゃん。もう、描き始めた瞬間から涙が止まらないような気持ちでね。自分で「うまくいったな」って思って、依頼主さんにもとても気に入ってもらえて、本当にうれしかった。


―――もうこの世にはいない、実際には会ったこともない鳥ちゃんだよね。そこまで思いを込められるのってすごいね。

ねぇ。すごい体験だった。

―――そういう、本来、自分には関係ないものにでも、思いを寄せられるようになったのって、大人になったからかもね。若いときには難しかったんじゃない?

そうね。その人の思いをもらって、いったん自分の中に入れるっていう・・・。描くって、幸せだったり元気だったりしないとできないと思う。

―――描けないときはないの?

最近ないね。最近っていうか、けっこうずっと元気やけんね。

―――逆に、描いてるから元気なのかな。

そうね、そうかもしれん。やっぱり、絵が、自分がいちばん勝負できるところやけん。


 

 

◆「できる」って思ったら、なんか、できた。 

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 (自画像 2009 natu  2009年 SM  227×158mm)


―――あのさ、不特定多数の人に絵や個展を紹介するのってドキドキしない? 私、「ママじゃな」のサイトを紹介するのでさえ、今でもちょっとね・・・。押しつけがましくないかなーとか。興味のない人だって当然いるしさ。

そりゃ当然いるよね。子育てバリバリモードの人だっているし、今回だって、アクロスみたいな場に行くどころじゃない人だっているよね、小さい子がいたりとか・・・。でも、どんな反応も気にしないことにしてる。人の状況って外からだと分かりようがないところあるやん? 

―――うんうん。

もちろん気遣いせないかんとは思うけど、別に悪いことをしているわけじゃないというか。「自分はこういう人間だ」って言ってるだけで、「だからこうしてほしい」と言ってるわけじゃない。

―――今、子どもたちを育てつつ、学校や園の保護者のお仕事もいっぱいしながら、こうやって自分の表現もやってて、周りからは「南さんって、すごい人だ~!」って思われることもあるかもしれんけど、しほちゃんも元々は「ただ絵を描くのが好きな女の子」だったんだよね。

そういう意味では、私ポジティブなんじゃない? 「できる」って思ったら、できたとよ、なんか。「できない」って思ってそこで思考停止したらそれまでやん。できるかできないかって、能力的に差があるわけじゃなくて、考え方の差なのかも。

(幼稚園の保護者会の)会長だって、ダンナさんが「そんな大変なことやめとけ」っていう家もあれば、うちのしんちゃんみたいに「応援するよ、がんばれ」って言ってくれる家もあるわけで。でも、ま、ダンナさんがどうこうっていうより、そういう人と結婚してるわけだから、それが私のしたいことなんだよね。逆に、したくない人がいるのも当然で。


―――人それぞれ違うもんね。



 

子どもを見送ってぐぐっと水底に潜り、ザバーッと上がってお迎えに行く(笑)

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(  追信 ゆびわ  2015年  70×160mm)


―――オンオフの切り替えは大丈夫なん? 子どものことで忙しいけん絵に気持ちが向かないこととかない?

子どもがいるときは描かないね。(幼稚園や学校に行って)一人になったら、朝から2時半とかまで、ずーっと没頭してる。水中の、ずっと底のほうに潜ってさ、幼稚園のお迎えに行く5分前になったらザバーッと上がってくるって感じ(笑)。

―――潜ろうと思ったら、すぐ潜れるわけ? すぐにモードを切り替えられる?

潜れるね。

―――そっかー。それも技術っていうか経験値じゃない? 切り替えってやっぱり難しいけんさ。

朝とか、子どもたちが行ったら何をするとか、考えながら家事しよるね。

―――で、集中してやってて、「今いいとこなのにお迎えの時間だ~」とか、ないと?

あるあるある。あきらめる、それは。

―――すっぱりあきらめるんだ。

明日やればいいことやしね。園や学校の用事が多くて、時間がとれないこともけっこうあるよ。
新学期も、ほんとはすぐ板(※しほちゃんはテンペラ画を木の板に描きます)とか買いに行きたいけどなかなか行けない。でも、いいといいと、来週は行けるんだからとか思ってさ。ありがたいことに、依頼も納期とかなくて、みんな「いつでもいいよ」って言ってくれてるけん、自分のペースでできる。もちろん早く描きたいけどね。


―――自分に合ったスタイルを作ってるんだね。

描きたいけど描けない・・・みたいな、あっためる時間も大事とよ。子どもといるときも、頭の中では絵のことを考えてるときはあるよ。たぶん、どんな仕事をしてる人もそうだよね。そうやっていろんな時間に考えてることがアイデアにつながったりするっちゃない?

―――なるほど、うまく時間を使ってますなあ。

いっぱい失敗もしてきたとよ。


 

 

◆今いるここが、私の居場所 

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―――私ね、「自分は自分」って思って、いい意味で勝手にやってるような人を見るの、すごく好きっちゃん。

うんうん。私も最近、不惑に近づいてきてさ・・・

―――おお、いいね。これから、「アラフォー」って言うのやめよう、「不惑」って言おう(笑)。

(笑)。最近、なんかもう、ぶれなくなったね。

―――ぶれない、惑わない。まさに「不惑」やん!

ははは(笑)。「自分はこうやって生きるんだ」ってものすごく納得してる。ハタチぐらいのときって、アメリカに住みたいとか妄想しよった。でもそういうこと思わなくなってさ、それは、“身の程を知った”ってていうよりは、「ここがいいな」って思うようになった。

―――おおおおお。深い。

どっか行ったら、家族とか友だちとか離れちゃうわけやん。そう思ったらどこにも行きたくない。いろんなもののバランスがミラクルにできてて、今こうやって絵を描けたりしてる。自分からそれを崩したくない。

―――うん。そしてそれは、周りの人の支えとかもあるけど、しほちゃんが自分で作ってきた場所なんだろうね。


(おわり。)

 


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  (アクロスを出て芝生広場へ 早速秋の気配漂う)


[編集後記]

インタビュー:イノウエ エミ
しほちゃんのおうちで、共同展で、飾ってあるお店で。これまでいろんなところで彼女の絵を見てきましたが、それらが時系列にずらーっと並んでいるのを順番に見ていってる最初の時間、ちょっと泣きそうでした、なんか胸がいっぱいで。12年。うれしいことも悲しいことも、私が知っていることも知らないことも無数のようにあったでしょう。その中で、彼女が静かに描き続けてきた絵たち。大切に集められた宝石のように輝いて見えました。

で、感動しつつも、「こりゃ、個展が終わったら燃え尽き症候群になってもおかしくないわな~」なんて感じたりもしていたんですが、新しい絵の注文があったり、次の個展の話が来たりと、個展の勢いのままに彼女は進み始めてました。個展終了後には娘ちゃんの誕生日があり、その後、子どもたちの新学期が始まりました。じきに運動会もやってきます。日々は続き、しほちゃんは描き続ける。それが頼もしく、励みにもなります。しほちゃん、おつかれさま、ありがとう。絵を見るって本当にいい気持ちですよ、みなさん。


撮影:橘 ちひろ
展示会初日の午前中、すでに絵を見に来られているお客さんがいました。しほこちゃん初の個展は「初」なだけあってすごいボリューム。しほこちゃんの思いや願いがぎゅっと詰まっている感じがあふれ出ていました。
またこれから第二回・三回とどんな風に展開していくのかとすごく楽しみにしています。

生活の中(子育ての中で)で絵を描くっていうことと、あと、自分の思いや願いだけじゃなく人の思いや願いを描くこと(これは感受性豊かなしほこちゃんだからこそできる事だと思います。なかなか誰にもはできない!)、インタビューの中でそのへんのお話が聞けてすごく参考になりました。
私も自分のスタイル見つけたいな、しほこちゃんの個展に励まされて、もうちょっともがいてみます。
私の今回の一番好きな絵は「あやこのPupe」インコの絵です。なんでだろう、涙が出る・・・。