“ママじゃない私” ポートレート

いつものあなたの、いつもと少しだけ違う顔。いろんなママたちの、「ママじゃない顔」ポートレート。

vol.2 イノウエ エミ の 「ママじゃない私」 ポートレート

     

 

※当記事は、インタビュアー・エミ、インタビュイー・エミでお送りする、セルフポートレートならぬセルフインタビューです。いわゆる自問自答ですね(笑

―――子どもを見てて、自分に似てるなーって思うことありますか?

ある~。怖がりなとこ、頑固なとこ、あと、3歳にして、そこはかとないオタクっ気を感じる。

―――そんなの、わかるもんですか?!

なんか、固有名詞の収集に情熱的なんだよね、すごく。固有名詞って、知らない人にとっては、意味の分からない記号でしょ。息子を見てると、知らない記号にどんどん意味をもたせて、彼なりに自分の中で体系化していくのが楽しくて仕方ないみたい。それってオタク特性っぽくて。

まあ、幼児期って、言語能力もどんどん上がるし、「広い世界のたくさんの謎を解明していく」ような時期だろうから、みんなそういうとこはあるんだろうけどね。子どもは記憶力いいし。


―――固有名詞という記号に意味・・・? 体系化・・・?

たとえば私、陸上競技全般が好きで、世界陸上の開催期間は、「織田裕二か私か」ってぐらいの勢いで盛り上がってるんですね。「ケネニサ・ベケレ」って人の名前=固有名詞を聞くだけで、「エチオピアの英雄、トラック長距離の皇帝だな!」と胸が熱くなるわけです。

他に、「豊臣秀吉」って聞くと、天下統一とか太閤検地とかのほかに、これまで大河ドラマや時代劇スペシャルで秀吉を演じた役者さんが、瞬間的に、10人以上、バーーッと思い浮かぶ。あ、私、歴史オタク大河ドラマオタクでもあるんで。朝ドラも好き☆

要するに、生きていくうえで何の役にも立たない、オタク以外には何の意味ももたないような固有名詞や専門用語をたくさん身につけて、自分だけのデータベースを構築してキャッキャいって楽しむのって、オタク的だなーと思うんです。


―――はぁー…。

あと、歴史はね、庶民の暮らし的な、民俗学っぽい部分も好き。中世近世の流通経済や、幕府や藩の統治機構みたいな社会システムにも興味ある。寺社仏閣はもちろん、石垣・石橋・水路もラブ。

スポーツは、フィギュアスケートも好き! ソチ五輪さいたまワールド(世界選手権)、いったい何人の選手の演技で泣いたことか…。オタクらしく、プロトコル(得点の内訳が詳細にネット上で公開されるもの)もめっちゃ見ますよね、目を皿にして。たとえばユリア・リプニツカヤはすばらしい才能をもつ15歳だけどルッツジャンプにエッジエラーが…(えんえんと)


―――ハイ結構ですどうもありがとうございます~(棒)

すいません。引きますよね…。でも、オタクっていうか、ミーハーなのかな?とも思うんですけど。

―――というと?

野球サッカーも大好きだし。歌舞伎も! 現代劇のドラマなんかもけっこう見てるほうだと思う。アイドルも好きです、子どものころから。今も、SMAPに嵐、AKB、ももクロ・・・大好きです。あっ、「笑っていいとも」も大好きだった!タモさーん!!

―――まあ、どっちにしても、あんまり、どこででも、声を大にして言える話じゃないですよね…。

すいません。かなり暑苦しく語るタイプで…

     

 

子どもも将来、こんなふうになるのかなあ…あ、でも、うち、夫はオタクっ気のかけらもないんで、そこはどう出るか、わかんないですよね。

―――あら、そうなんですか? 

ええ。夫はオタクでないと同時に、いわゆる「ぐう聖」だし。

―――え? ぐ・・・何? 一般人にわかる言葉でお願いできます?

ググッたら一発で出てきますよハハハ。ともかく、私には過ぎた夫です。料理洗濯、育児に雑事、なんでも上手で、しかもオタクじゃないのにオタクに寛容。

―――お子さんには、ぜひそちらに似てほしいですよね! ぜひにね!!

ちょっとちょっと。なんだかんだいって私もね、それなりに社会性のあるオタクっていうか、地に足のついたオタクだよ? 運動部出身(ソフト)、バイト経験も割と豊富。卒業してからも一人暮らししながらコツコツ勤め人やってたんやけん。

―――ほう? ちなみにお仕事は何を?

主計、いわゆる経理やね。すごく大雑把にいうと決算書つくったり、各種税金の申告書つくったり。

―――はー、そりゃまた地味な・・・いえ、地道な。オタクに似合うっていうか…

あ、だから9年も続いたのか…って、失敬な(笑)。

や、仕事はすごく面白くて、勉強になるものでしたね。経理といえば、会計基準や税法やら勉強して、ひとりでパソコンとか電卓に向かってるイメージだけど、実際は、何の仕事でもそうでしょうが、ものすごくいろんな要素がありますよね。

コミュニケーション能力や、雑務を効率よくこなす能力。体力や持久力、創造力も必要でした。セクハラパワハラへのスルー力も(笑)。それら全てに長けていたってこたぁ、もちろんないけど笑 


経理的な専門性も面白かったです。会計も税も、法を遵守し、取引先や社会に対して誠実でありつつ、かつ、企業として利益を上げ続けるために攻め気でなければならず、時にはリスクもおかす。会社というものがどういうふうに動いているか、つぶさに見て、渦中にいられたのは、すごく貴重な経験でした。


あと、仕事してると、いろんな人と関われるしね。それがめんどくさいとこでもあるけど、面白いとこでもありますよね。あ、母親同士の付き合いにも共通するとこあるな、って思う。育児という同じ目標に向かっているけど、個性はバラバラの、「同僚」って感じ。

        

―――でも、出産を機に、辞めちゃったんですよね?

そうなんですよね…。まぁ当時の就労環境の問題が大きかったんですが、いちど仕事辞めてみたいなって思ったりもして。

―――いつか社会復帰することは?

あると思います。厳しいニッポン、家計を考えただけでも、このまま一生働かないってこたぁ、なかろうと。

―――そのときは、やっぱ、経理?

うーん、もちろん選択肢の一つになるけど、他にも、やってみたい仕事はいろいろある!

―――へぇー。この厳しい就職戦線、やりたい仕事より、やれる仕事、やらせてもらえる仕事じゃないですか? 

厚かましいですよね。既に何年もブランクがあるわけだし。実際、仕事を探そうってときには、弱気になるのかもなー。現実的に、子どもがまだ子どもだったりしたら、時間的な制限もあるわけだし。

てか、それ以前に、自分は昔、すごく一生懸命に仕事をしてたし、今も好きなもの、興味のあることがこれだけたくさんあって、それが日々の楽しさに繋がってると思うんだけど、そのうちの何ひとつ、モノにしてないんだなーと考えると、弱気というか、「はぁー」って感じになったりしますね。


―――その年だと、子どもの有無とか関係なく、きっちり仕事してる人や、ライフワーク的な趣味を持っている人もいますよね。

そうそう。翻って、私ってどれも「下手の横好き」レベル…。ま、でも子どもとの日々は本当に楽しいし。家族の時間も自分の時間も大事で。

―――え? 今の自分に不満があるの? ないの? どっち?!

どっちも。誰でもそうだと思いますが、ひとりの人間の中には、多面性っていうか、相反する性質が同居してますよね? 

―――どういうこと?

私にも、体育会系文科系、大雑把と神経質、保守と革新(笑)、オタクとミーハー、いろんな部分があるってこと。安定した家庭生活、日常生活こそがすべて!と思うときもあれば、苦難を厭わず一心不乱に打ち込んで何かを得たいと思う時もある。「もういい年なんだから」と思ったり、「いや、これからの自分の人生の中では今が一番若いんだ」と思ったり。

…って、言い訳かな~。こーゆーことをうだうだ言ってる奴は何にもなれないのだ~。もう30半ばだから、「夢のようなチャンスに恵まれて…」とか、「自分でも気づいていなかった埋もれた才能が…」とかってことは、まず、ないわけで。


―――そりゃそうですよ~。昔から、「Don't trust over 30」って言うくらい、大人な年ですよ。

だったら、やっぱり腰を上げないと始まらない、いいと思ったことはどんどんやりたいな、と。この「ママじゃない」企画もそんな感じで、「やろう!」と思って。たとえば、この企画そのものが途中で頓挫しても、そこまでやった経験は自分の中に残るし。そういう過程というか、積み重ねることに意味があると思うし。

―――なんか、いい感じにまとめてきてる(笑)

地道にやるのって、割に好きなんですよね。ブログ干支ひとまわりする以上に続いてるし。長距離を走るのも好きですしね。

―――いかにもオタクらしいよね。

あ、でも、テストは、一夜漬けが効くほうだった。ヤマかけたとこが結構当たるっちゃんね、私。

―――聞いてないよ!

まぁいいや。飲もう!

★(終)

     

 

[編集後記]

エミ(インタビュー): 被写体として一言。私は写真がとっても苦手。レンズを向けられると顔がこわばる~。それでもこんなにいい感じの写真が! 「はい、チーズ、パシャッ。じゃ、もう一枚ね~」が写真だと思っている者にとって、ちひろさんの撮影は、すごく長いです。ちひろ氏、「土俵際の魔術師」といわれた往年の貴ノ花のような粘り腰です。でも、撮れば撮るほど、いろんな味、思いがけない表情の写真が生まれてくるようです。ずーーーーっと撮られてると、さすがにこっちも、だんだん慣れてくるしね。みなさま、ぜひ、お時間ごゆっくりご準備のうえ、素敵な写真を撮られちゃってください! すごく新鮮だよ!

「自分で質問して自分で答える」セルフ・インタビューは、1996年、ザ・イエローモンキー時代の吉井和哉がロッキン・オン社でやってた連載に想を得ました。この単行本「吉井和哉のおセンチ日記」、むちゃくちゃ面白いです。興味のある方、お貸しします。

橘 ちひろ (写真:歴史オタでもあるエミ氏を福岡城石跡にて撮影!この企画初めての撮影、緊張でなかなかイメージがつかめずすごく時間がかかってしまいました。晴天・日の高い時間の撮影、もっと勉強しなければ!
 一枚目の写真が特に好きです。そして2枚目の石垣、こうして見ると確かに味わい深いものだ~。