“ママじゃない私” ポートレート

いつものあなたの、いつもと少しだけ違う顔。いろんなママたちの、「ママじゃない顔」ポートレート。

vol.9 ブーヴィエ・フローレンシア・明子 の 「ママじゃない私」ポートレート (後編)

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(詳しいプロフィールや、子ども時代、結婚までについて聞いた前編はこちらです→

vol.9 ブーヴィエ・フローレンシア・明子 の 「ママじゃない私」ポートレート (前編) - “ママじゃない私” ポートレート )

アルゼンチン生まれ、パリで吹きガラスを学び、れんくん・ゆりちゃん・しょうくん3人のママとなり、今は家族5人で宗像に暮らす、ブーヴィエ・フローレンシア・明子、通称アキ。
いよいよ、アキちゃんの作品、 「アンキングラス」の登場です!(アキちゃんのサイトも合わせてどうぞ!) ここにあるのはほんの一部。

 

◆アンキングラスができるまで

 

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吹く前は、透明なガラスの塊。1500度近い、すごい高温の釜の中で塊を溶かすの。ハチミツみたいなにトロトロしとるんよ。それを、竿の先っぽに巻きつけて・・・

―――こっちから、ふーって吹くんよね。色は、最初からついてるんじゃないよね?

うん、パウダー状だったり、フリットっていってビーズみたいなのだったり、色ガラスを蒔きつけたり・・・形と色を同時にやっていく。

―――意図したとおり、完璧にコントロールはできないよね?

色はね、ちょっと難しい。思い通りになるかどうか…。形はできるよ。技術があれば何でも作れるよ。

―――吹き方で形が変わるってことだよね。

そうそう。道具も使うと。ピンサー…ピンセットみたいなのでピーッとひっぱったり、はさみみたいなのもあるし、台の上で形を作ったり。あたしは、ガラス学校に行ったこともないし、仕事しながら週2回ぐらい、週に数時間…。やけん、技術は全然なんよ。

―――工房に行って教えてもらうの? お金を払って?

そうそう。あと、ワークショップはいっぱい参加したね。朝から晩まで一週間、とか。

―――あのさー、普通に、熱くないの?

熱いよー! サウナ。重労働。重たいし。

―――吹くときの口元は熱い?

あ、それは熱くない。竿の先に巻き付けて作業するんだけど、竿はけっこう長いけん。でも、道具をもう片方の手に持って・・・道具も熱くなるけん、手がすっごく熱い。手袋したりもするけど。顔もけっこう火傷したりするよ。竿に巻きつけるときとか。

―――ひえー! こわい。でも、その熱で、こんな形ができるんだから、やっぱり神秘的だよね。熱の力。1個成形するまでに、どれくらい吹くの?

私のだったら、だいたい2時間もかからんぐらい。道具での作業とかも含めてね。

―――えっ、けっこう長いやん! やっぱり重労働!

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◆What is “アート”?

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―――作風は、最初から変わらない?

だいたい変わってないと思う。

―――東洋でも西洋でもなく、沖縄アルゼンチンでもない・・・特別な地域柄は感じない、不思議な作風よね。色合いといい、模様、形といい。

―――(ちひろ) アキの世界。小宇宙って思うよ!

―――吸い込まれそう。アートだね。一個一個、色も形も全然違うけど、ホームページとかでずらっと並んでるの見たら、「同じ人の作品」って感じがあるよね。
人に売ったりあげたりするときは、どういうふうに使ってほしい、見てほしいとかある?

そやね、自分としては、オブジェとして作っとうけん、お花を活けやすいとか考えて作ってないし・・・もちろん、活けてもらっていいんだけど、本来、実用性を考えてないんよね。口を閉めちゃっても面白いかな、って思うことある。

―――そしたら完全なオブジェ、完全なアートになるね。アートってさ、日本人の普通の生活では、あんまり触れる機会ない気がするんよね。福岡も、小さいギャラリーとかたくさんあるけど、見に行く人は限られてる。

確かにそういうとこあるね。日本って、海外より、こういう実用性がないものが売れにくい。同じガラス製品でも、器だったり、コップだったりすると売れるんよ。こういう、ただの飾りだと、あんまお金かけんよね。絵とかも、なかなか買ったりせんやろ?

―――どこか敷居が高いと感じがちというか、「私、見方がわかんないから」って感じ? 別に正しい見方が必要なわけじゃないんだろうけど。

なんでだろう?

―――(ちひろ) ひとつはさ、さっきの学校教育の話にもつながるけど、自分の価値観をもてないんじゃない? たとえば、「ピカソ作品が一同に展示!」「モナリザ来日!」ってなったら、日本人、行列してでも行くでしょ? パリ行ったら、とりあえずルーブル美術館に行く、とか。価値が世間で認められてるものなら。だけど、もっと、名も知れてない作品に対しては、「自分はこれが好き」って思える自信がまったくなかったり、だから興味がなかったり・・・

そうそう、そういうとこあるよね。

(アンキングラスのサイトはこちら☆もっとたくさんの作品や工房での動画もあります。写真もとてもきれい!→Ankin Glass

 

◆「小さいときは子どもとたっぷり過ごしたい。大人になったら好きなところに行ってね」

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もともと、基本的にひとりで遊ぶのが好きだった」というアキちゃん。買い物、映画、ライブ、旅行・・・。けれど「しばらくは一人で遊びに行く事はなさそう。」と言う。打ち込んできたガラス吹きに対しても、
「いずれはたくさん作品を作って発表していきたいと思っているけど、それは子供たちがまだまだ大きくなってから。それまでは、やるとしてもぼちぼち。」
「とにかく子供たちが一番かわいい時、私の事を一番必要としている時、この時間っていうのはもう戻って来ないし、子供と離れて何かをするっていう事は考えられない。」

と、すごくキッパリしているのです。

 

―――「好きなことが今できないのは仕方ない」、「子どもたちが大きくなってからの楽しみに」。そのスパッとした割り切り、すごいよね。

―――(ちひろ) なかなか割り切れないよ私ー。

今はとにかく、子どもがかわいくてしょうがないけん、なんかもう、一瞬も見逃したくないって感じ。誰かに預けて何かしたい、ってのは考えられん。だってもう、あっという間だと思うよ。今だけ。ほんの数年よね。

―――長い人生を考えると、ほんとはそうなんだよね。

思うのは、自分の役目としては、れんちゃんたちを自立させるのが仕事。18になったら、どっちかというと手放したいね。

―――自由に生きてほしい?

それもあるし、私から離れてほしいっていうか・・・外の世界を見てほしい。いつまでも私のところにいてほしいとは思わない。別に18じゃなくてもいいんだけど、あるていど自分のことができるようになれば、いつでもどうぞ、って感じ。

―――自分の人生を、広い世界で、自分で切り拓いていくこと・・・大事だよね。

うん。私も、用意されたもので進んできて、大学4年になったとき、これから自分でお金を稼いで生活していかないかんけど、どうしていいかまったくわからんかったと。やりたい仕事もなかったし・・・。自分の子どもには、それを教えたいっていうか、頭に入れといてほしい。いつかは自分でやってかないかん、ってのをね。

―――(ちひろ) それって逆算すると、小さいうちにいっぱいかわいがるのが大事、ってことにもつながるかもねー。


―――それと同時に、画一的な教育・世間の空気で、可能性を失わないようにしてほしいよね。

―――(ちひろ) いろんなことを思いつかなくなっちゃわないようにね。

日本の子ども・・・私も英語教えてるけどさ、ほかにもたくさん習い事してる子もいて・・・。お母さんたちも、自分の子どもにいろいろ与えたいから、子どものこと思ってやってるのは間違いないけど、なんか息苦しい・・・。

―――他の子も行ってるとか、周りに遅れをとるんじゃないかとか、うちの子だけできないとかわいそう、って考えで、習い事させたり、モノを与えたりしてしまう面もあるよね。

むしろそっちのほうが大きいかも。塾とかさ、親からしたら、自分だけ行かせないのは自信がないんだろうね。

―――で、行かせることで安心してしまう。

私はね、れんちゃんたちが小学生になったら、しっかり図書館行かせるって決めてて。図書館なら、いろんなジャンルのものが目に入るから、ひとつぐらい、楽しいと思えるものがあるんじゃない? 私たち経済的に余裕がないけん、習い事とかはさせられんけど、図書館はタダだし、自転車で行けるし。

―――(ちひろ) 何か見つけるよね、マンガだってあるし、図鑑とか、写真集とか。

文章を読む力は育ってほしいと思う。それ以外は、もう勉強せんでもいい(笑)。



◆「優先順位を考えると、一番は食事だった」

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―――食材は、どこで買ってる?

野菜はね、夏は、畑しよるんよ。ナス、ピーマン、ゴーヤ、キュウリ、トマト、オクラ・・・。

―――そんなにとれるんだ!

毎日とれるよ。あとはグリーンコープ。ちょっと高いけど、もう「お金じゃない」って思うようになって。私たち、それしかお金使ってないもん。「食事ぐらいは、ちゃんとおいしいもの食べたい」って。

―――子どもができてからなんだよね? そういうふうに考えるようになったのって。

そうそう。それまで、私ほんと料理せんかったんよ。めっちゃ苦手やったし。体のことも考えたことなかった、不健康な生活で・・・。

―――今の考えになるまでには、本を読んだりして、自分で勉強したってこと?

そう。図書館とか行くと、そういうほうに目がいくようになったと。ほんとにシンプルで、ベースは和食玄米と野菜、大豆、魚が週に2回ぐらい。ま、実家に行ったらお肉も食べるけど。

最初は、ほんと何も知らんくて、味噌汁すら、わからんかったぐらいよ。毎日インターネットでレシピを調べて、買い物行って、一年ぐらいはそんなふうにしよったんよ。ちょっとずつ、あるもので作れるようになって。

今でも、いろいろ作れるわけじゃないと。でもね、ダンナも私のごはんが一番おいしいって言ってくれるし、子ども好き嫌い全然ないと。たまに、気分的に「今日これ食べたくない」とかは言うけど、基本はよく食べる。で、不思議なことにね、教えてないのに、「おかあさん、いつもおいしいごはんつくってくれてありがとね」って、言ってくれたりするんよ。


―――うわー、うれしい! 涙出そうやね、そんなこと言われたら。

なんかすごいなって思うんよ。一生懸命作っとうのが、ちゃんと伝わっとうちゃね、って。ダンナの弟の奥さんとか、ガビのお母さんも、すごい料理上手でさ、いっつも私、「あー早く料理上手になりたいな」って思うけど、そうやって、家族が何でも食べてくれるし、感謝してくれるし、ほんと幸せやね、って思うよ。

―――全然できない状態から、そこまでになるのって、けっこう大変だったんじゃ?

ほんと、一日ごはん作るしか…(笑)。朝ごはん作って、おむつ替えて、洗濯して、お昼の用意やろ? お昼終わったらおやつの用意、おやつ終わったら夕飯、いっぱい寝かせたいけん、7時には布団に入れたいけん、3時ごろから夕飯つくって、5時までにお風呂入れて・・・

―――それ、一人でするんだよね? つらくない?

「はー、このまま終わるんかね」って、ふと思う事あるけど、でも、それがやりたかったっていうか・・・やっぱり、私は今の生活が楽しい。まあ、別にごはん作るのが楽しいわけじゃないけど、でも、これはちゃんと幸せにつながってる、っていうか・・・

―――そういうことが幸せにつながってる、って実感があるんだねえ。

子どもが生まれたら優先順位が変わる。何が一番大事か、って考えると、私はやっぱり、ごはんだったんよね。

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       (今年は初めて梅干しを作ってみたそうだ)

 

 

◆「子供が生まれてからはなおさら、堂々としています」

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学生の時の友だちで会ってるのは、ちろぐらい。大学の友だちもみんな東京だし。今、限られた時間で、絶対会いたいと思える人以外とは、なかなか会わんよね。そういう意味では、充実しとるんよ(笑)。

―――ああ、いいね! 数じゃない。友だちがいっぱいいたほうがいいとか、幻想だよ(笑)

―――(ちひろ) やりとりも、実は少ないよね。アキが外国に行ってたときとか、2年ぐらい会わんかったりしたし、手紙もなかなか書かん(笑)

―――それでも、続く人とは続くんだよね。大人になると、会うのは本当に時々でも、心はずっとつながってるような気がしたり。

ほんと、そういうことよね。年とると、そういうふうに思えてくる。

―――そのシンプルさが心地いいよね。

どこか集団に入って所属するのが苦手なんだ、ってつくづく思う。

―――うん、得意である必要ないし、「ひとりで動くのが好き」って堂々と言えるのってすごくいいことだと思う。とはいえ、私なんかは、時々、「私って友だち少ない・・・?」とか不安になっちゃう波がくるんだけど(笑)。

アンケートに「細かいこと、気にしてもしょうがないことは気にしない。子供が生まれてからはなおさら、堂々としています。」って書いてあって、すごく感動したんよ。普通はさ、小さい子を抱えてたら、世間に迷惑かけないように、ママ友にも気を遣って、肩身を狭くする傾向に・・・

もう、全然気にならんようになったっちゃん。周りにどう思われてもいいや、というか周りからよく見られたいなんて思わなくなった。

―――たとえば、どんなこと?

夏やけん、よくプールとか海や川に行くんだけど、お母さんたちって、全身隠してるよね。紫外線を気にしてるんだろうけど。私はね、れんちゃんは赤ちゃんやけん、全身覆ったりするけど、自分の日焼けとか、見た目とか、もう全然気にならんと。ビキニ1枚。ぶよぶよしてるとこもあるけど、どうでもいいと(笑)。それで、子どもたちと一緒に水に入って、しかも騒いで・・・(笑)。浮いとうと思うよ。大人でそんなことやってるの一人だけ。でも、気にならない。

―――堂々とするって、いいよね。そのほうが、気持ちいいと思うんだよね。このブログやってても、そう思う。「写真載せるなんて、自分の人生や考えを語るなんて、恥ずかしい、怖い」っていう気持ちもわかるけど、堂々と笑ってる姿はみんな本当に素敵。どれくらい美人とか、年とか、絶対関係ない。

あ、学生の時、ちろにね、そういうこと言われたよ。ガビちゃんのことが好きで好きで、片思いで、私よく悩んどったと。そしたら、ちろが、 「アキは飾らずに、そのまんまでいい」って。 「飾らずにね。そのまんまの自分を見せればいい」って。そうなんやー、って思って。今でも、とっても頭の中に残っとるんよね。

―――(ちひろ) そのまんまのアキのほうが、ガビさんに合ってると思ったんだろうね。私なりに。

そのまんまがいいって、当たり前のことだけど、なかなか、わからんのよね。自分に自信がなかったり。

―――でも、「そのまんま、堂々と!」って、広めていきたいね。そのほうが、楽だし、楽しい。

―――(ちひろ) 干渉しない、歩調を合わせない! そのほうが、戦争もなくなる!(※ここ、いきなり理論が飛ぶんですが、いつか機会があれば番外編で笑)


★おわり。(↓ 下に編集後記あります)

 

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          (全て写真はクリックすると見やすくなります)

[編集後記]
インタビュー:エミ

 子ども時代からの親友ふたりの心安い雰囲気に、初対面の私も緊張を忘れて話し込んじゃってました。目の覚めるような話ばかり。紹介したいことが多くて、ついつい長い記事に。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます!

彼女の経験は彼女だけのもので、そこから培われてきた考え方も、すぐに真似できるものではありません。けれど、「彼女は特別な人だから・・・」じゃなくて、本当は、誰のどんな経験も、考え方も、すべてがその人固有のものであり、特別なものなんだと思います。

話を聞いていて、彼女の幸福度が高い(自分を幸せだと感じている)のは、「自分で選んで生きてきた」からではないかと思いました。ガラスをやることも、パリに行くこと、宗像で子どもを育てること、食事を大事にすることも、彼女自身の選択です。その過程では、しんどいこと・悩むことも、たくさんあったでしょう。でも、自分で決めたことだから真剣に向き合ってきて、真剣に向き合ってきたことだから、人生の次の局面での選択に生かせて・・・それを繰り返すことによって、今「自分が大事にすべきもの」「居心地のよい場所」に辿りついているんじゃないか。同時に、「今このとき」を永遠に続くわけではない、かけがえのない時間として大事にできるんじゃないか、そんなことを感じました。

ただ漠然と生きてるだけでは、あんなにクリアな考えはもてないでしょう。やっぱり、自分の人生は自分だけのもの。限られた時間を、自分や大切な人たちのために、主体的に生きたいな、とあらためて思ったのでした。アキちゃん、ありがとう!

写真:橘 ちひろ      

中学の頃、アルゼンチンから来たという噂のアキと出会い仲良くなった、のに・・・・、特別に海外に興味を持ってホームステイするとか外国語に興味を持つとかそんな影響もなかった私(話で海外の生活の様子を聞くのは大好きだったけどなー。英語はう~ん残念!)。でもなんだろう、アキと居たらとても納得がいく事が多く、心が自由になってラクになって、楽しかった!

今思うとその頃から人としての根本的な部分で影響を受けたり通じあったりしてたのかな~と思います。その事に気付いたのはお互いが母親になって色々な事に対する価値観を話すようになってからです。

学生時代からよく撮ってきたアキの写真、今回もとても撮りやすく、なかなかまっすぐ撮れた気がします。どうかな~?
ハハハ・・・なんか照れて上手く書けないよ。   .