vol.3 たなかまき の 「ママじゃない私」 ポートレート
仲間たちのお姉さん的存在であり、一緒にふざける仲間でもある、たなかまきさん、通称“たなかま”さん。某企業で英語の通訳・翻訳を含めた仕事をしていて、1年4か月ほどの産休・育休から復帰する直前の撮影・インタビューです(娘のすずちゃんは保育園で馴らし保育奮闘中!)。今もNHKラジオの語学講座を2~3時間聞いてる(しかも英語だけでなく、フランス語、スペイン語、イタリア語…)という語学オタク…いえ語学の俊英(笑)であり、ウッドベースの名手でもあり。
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◆「世にもすがすがしい性格」に迫りたい(笑)
―――たなかまさんは私にとって、なかなかいないタイプの友だち。この、世にもすがすがしい性格がどうやってできたのか知りたいんだけど。
そう? 単に、「なかなかいない」って思えるほど付き合いが深い、ってことやない?
―――うん、それもあるかもだけど…愚痴っぽくないし、人の悪口とか言わんのは、ほんとにすごいと思う。大人だよね。たださ、たまに天使みたいな人って、おるやん? ほんとに育ちが良くて、性格が良くて、人の悪い面とか、もう、最初から見えないような人。たなかまさんは、そういうタイプじゃないんだよね。
ない、ない(笑)。
―――むしろ、かなり鋭く、全部見てる(笑)。
毒も吐くし(笑)。
―――でも、それが嫌な感じじゃないんだよね。女子ってさ、ややもすれば、愚痴大会、悪口大会になったりするやん? 育児のことにしろ、ダンナ・お姑さんのことにしろ、延々と誰かが愚痴を言い続ける、あるいはみんながそれぞれ愚痴を言いあう会。
それほど深い仲じゃなくて、話題がないから、わかりやすい愚痴に走ることもあるんやない?
―――あ、なるほど。それも含めて、愚痴るのって、そのほうが楽だからじゃないかと思うんよね。ほんとは、誰だって愚痴っぽい自分になりたくはないし、悪口は良くないとわかってるけど、あたりさわりのない愚痴でその場をつないだり、あるいは、自分の心の中だけにおさめておけなくて、愚痴っちゃったり。確かに、愚痴るとスッキリしたりするけど、それが高じて、会うたびに、いつもなんか愚痴を言ってる人とかいるやん。
うん、言ってスッキリするなら、いいのかもしれんけど、そのレベルを超えちゃうとね…。いわゆる“言霊信仰”みたいな話で、あんまりネガティブなことを言いすぎると、その分、余計悪くなる気がするし。愚痴っぽいことを言う仲になったことも何度かあるけど、結局だいたい、その人とも悪い感じになるね。
―――負のオーラに包まれていくんやろうね…。逆に、ネガティブ関係を言葉にしない人は、嫌なことがあったときや、ストレスとか、どうやってやり過ごすんですか?
うーん? チョビッとは言うやん。愚痴。
―――あ、言うね。チョビッとね。長引かないよね。サラッと。
笑い話的にね。それで笑ってもらえたら、ちょっといい感じに…。
―――笑い話として話せるぐらいまで、自分の中で寝かせてから話すの?
エフさん (註:ダンナさん) とかなら、毎日会うから、すぐ話すよ。ただね、なんていうんだろう、うまく、はぐらかされるっちゃんね。笑っちゃう感じで。たとえば、彼のほうも、「取引先のわからんちんが、あーでこーで…」と言ったあとで、「もう、○○市(取引先の本拠地)、燃えてしまえばいい」って、まとめたりして(笑)。
―――ははははは。「リア充爆発しろ」的な(笑)
そうそう、「もう、シャチホコ砕け散ってしまえばいい」とか。私の愚痴にもそういうふうに返される。一度、エフさんに愚痴ってみたら面白いと思うよ。
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◆「好きなのは、毒があるくらいの人・表現をサボらない人」
―――周りに、すごーくいろんな人が集まってくるよね。人の好き嫌いはあんまりないほう?
あるよー、あるある。
―――え、意外かも。でも、ま、周りもみんないい人ばっかりやもんね。
うーん、「いい人」っていうか…けっこう、毒のある人が多くない? それぐらいがちょうどいいんだよ。
―――そっか、いい人っていうより、「面白い人」たちかもね。
で、たなかまさんは、なんかすごく、「去る者は追わず、来る者は拒まず」って感じがある。
「去る者」でも、追いかけたい人なら、追いますよ。「来る者」はね~、自分が苦手な人は、そんなに来ないんだよ。
―――近くには来ないけど、苦手な人はおるんや。
まあ、仕事関係とかね…。
―――どんな人、どんな人?(好奇心)
よく知らないから苦手だと思ってることはあるよね。だから知ることで苦手じゃなくなったり…。あと、知らないっていうより、自分がもった第一印象が間違ってる、っていう。そういうときは、違う一面が見えてくると面白くなるよね。
―――「ママじゃない私…」も、まさにそういう企画ですわ。
あと、表現がヘタな人があんまり好きじゃないかも。ヘタっていうか、表現をサボる人。たとえば、チヒロさん (と、いきなり名指し笑) はあんまり表現がうまくないかもしれんけど(笑)サボらんやん? 全身で伝えようとするよね。
―――ちひろちゃん、確かに(笑)。あー、サボるって、なんかわかるかも。なんもかんも、やたら「イラッとする」って乱暴な一言で処理する人とか、いるよね。
そう、そういうのはイヤ。ただ単に口下手なだけの人、とは違うよ。あと職場では、考えがあってわざと口下手にしてる人もいる。あれはね~その老獪さに触れたときは、なんかいいなって思ったね。
―――それはすごいね。人間、何か思うことがあれば、けっこう言いたがってしまう気がするけど。
通訳してると、「もうちょっとちゃんと喋ってよ」って思うんだけどね。「訳せないやん」って(笑)
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◆アンビバレンスが魅力
―――子どものころから、活発で、社交的だった?
そんなことないよ。早生まれなのもあって、周囲より拙いこともいろいろ。それもあって、得意なことを見つけさせようと、親がいろいろ習い事させたのかも。ピアノ、ちょっと水泳、ちょっと習字…。中学の頃は新体操部。器械体操がやりたかったっちゃけど、部がなかったけん。で、よく本を読んでた。
―――ほんと、何でもよく読んでるよね~。マニアックなとこあるもんね。高校生で、『日本文化私観』(坂口安吾)の感想文書くとか、レアすぎる(笑) 何がきっかけで読んだと?
確か、ちくま文庫の「日本の作家」シリーズが高校(の図書館)に入ったとき。だいたい全部読んだような…。
―――全部?! すげー!
装丁がきれいで、それにつられて。ま、全部あったら全部読むんだよ。
―――私が安吾を最初に読んだのは大学のときで、「堕落論」や「青春論」はインパクトあったけど、「日本文化私観」は、まだよくわからんかった。今回、読み返してみたよ。すごく安吾らしいよね!
うん。中学から高校前半ぐらいのころってさ、よく聞かされる正論に飽きてくるやん?
―――そう。だから新鮮なんだよねーっ。
―――(カメラマンちひろ)なに? なんかすごい話してるね。日本文化・・・?
―――戦後まもなく書かれた随筆でね、日本人が戦争に負けて、何もかも失って、落ち込んで、欧米に対しても卑屈になってるわけよ。そこで坂口安吾が、「法隆寺や金閣寺なんて、いくら焼けたっていいんだ。そんなものがなくたって、私たちが生きて、生活をしてる限り、日本文化はびくともしない」みたいなこと書くとよ。
「あれ全部つぶして、バラックにしたり、畑にしたりして、日本人が生きてくほうがよっぽどいい」ってね。
―――(ちひろ)へー、なんかいい話やね。
―――胸が熱くなるよね。ま、若干、「中2病」っぽいっちゃけど。あのへんみんなそうなんだよね。太宰もそうだし。
だね。でも安吾はちょっと、ドライな感じのとこがいいよね。
―――無頼派だから(笑)。
まあ、安吾が好きだからといって、古いお寺とか見て、「いいなー」って思う気分もあるんだけどね。
―――そうそう、その両義性ね! 古くゆかしい文化を愛しつつ、同時に「そんなの何ぼのもんじゃい」って思ったりもするアンビバレンス。たなかまさんって、そういうとこがあるし、そこが好き。
でも、生徒に安吾の感想文を提出されるって、国語の先生としては、「こいつ面白いな」って思うか、それとも「めんどくせーな」って思うのか…。
うん、「あの先生はめんどくさがるタイプだな」って思いつつ書いた(笑)
―――うわっ、わざと?! わざとめんどくさがらせたわけ?!
そうそう。書いたのは高2のときでね、「1年のときの先生なら、めんどくさがりつつ面白がって、気の利いた皮肉の一言でも言ってくれたんだろうな~でも (今の先生は) 嫌がるだろうな」って。
―――ヤな生徒だねーっ(笑)。
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◆「通勤途中…やっぱりNHKラジオの外国語講座かな(笑」
―――今、産休・育休からの復帰を目前にして、どういう気持ち? おすずやんが保育園に慣れるまで心配とか、時間的に忙しくなる不安とかは、当然あるだろうけど、仕事をまた始めるということについて。
楽しみだよ。気分転換できるんだろうね。毎日ね。
―――育児とは違う、大人の世界だもんね。育休中は、「(大人との)会話が足りない」って思うことあった?
あった、あった。だから、今も (友だちが遊びに来て、喋ってるのが) すごく楽しいもん!
―――仕事、出産前と違うとこもあるかいな?
4時 (時短勤務の終業時刻) を意識しながら働くと思う。仕事に対する思い入れも少し減るのかなあ。
―――主従(main-sub)でいったら「従」だね、仕事が。でも、お互いにいい影響を及ぼしそうだよね、いいときは。仕事は家事育児のリフレッシュになるし、仕事してるからこそ家族との時間ももっと大事に感じるだろうし。まあ、悪いときは、どっちかが大変になると、もう片方もすごく大変になるんだろうけど…
お昼ごはんをおすずなしでゆっくり食べられるなんて、夢のようだよ。
―――それだけで夢のようだよねー
あと通勤時間が楽しみ。ほんとに自分ひとりだけの、自分のためだけの時間やん? ものすごい貴重だよ。家の中でもないことはないけど、やっぱり、寝てるおすずを心のどこかで気にしながら…だし。出勤中、何してるんだろう。NHKのラジオ講座聞いてるか(笑)
★(終)
[編集後記]
エミ(インタビュー): 長いつきあいの友だちなので、話は弾むが、すぐ脱線する。なまじ長いつきあいの友だちなので、正面きって親愛や敬意を伝えるのが恥ずかしい…。など、何かと 「長いつきあいならでは」 のインタビューでした。「去る者も、追いたい人なら追う。」と言い切ったのがすごくカッコよくて、どんなふうに追うのか、微に入り細に入り聞きだせばよかった~。
橘 ちひろ (写真:昔からの私を知っていてくれているまきちゃん。「やっぱ、チロがカメラを持ってると落ち着くねー」っと言ってくれました。てへ。首の傾げが、コーヒーの飲み方が、笑い方が、全部まきちゃんです。どれも使いたくて選びきれなかったっす。