vol.26 むつみ の 「ママじゃない私」ポートレート
学校を卒業したあと、地元の新潟県長岡市で、そして結婚して福岡に来てからも、図書館で働いていたむっちゃん。
子どもができてからは専業主婦になり、今では、小6から年少さんまで4人のお母さんです。
家族みんなヒツジが大好き!
おうちのあちこちを羊毛グッズが彩り、本格的な糸車まであります。ヒツジのイベントに参加したり開催したりもしょっちゅうで、この年末年始はオランダへ。貸しバンガローを拠点に自炊しながら、2週間のヒツジ旅を家族で満喫したとのこと・・・!
◆オランダの人々の楽しみ方を知る
―――オランダのヒツジ旅、facebookの投稿を見てたけど、すごくいいなって思ったよ。子ども時代の思い出になるってのもあるけど、「大人が自分の好きなことを楽しんでる姿を見せる」って、すごくメッセージになると思う。
そうなの。パパが一番好きで、楽しんでるからね(笑)。
―――印象に残ってることを教えてくれる?
今回、滞在中に通った羊の農場でね、「森を2時間歩きましょう」っていう自然と歴史を巡るツアーがあって参加したんだけど、すっごく寒いの。緯度でいえば樺太と同じくらいなんだけどさ、でもオランダの人はそんなに分厚い防寒着じゃないの。で、2時間平気な顔してペースを乱さず歩いていくわけよ。
なんていうのかな・・・歩くことがレジャーになってるんだよね。ガイドさんが森の木の説明とかをサラッとしてくれるんだけど、それだけなの。日本人ってさ、もっと求めるじゃない?
―――求めるよね。なんか、エンターテイメント的な要素を…スタンプラリーとか。
でしょ? 回ったらお菓子をもらえるとかさ。でも、オランダにはそういうのないの。すっごく寒い中、ガイドさんのサラッとした説明を聞きながら、2時間スタスタ歩くんだよ。なんか、すごいなって思った。楽しみ方が違うんだろうね。
―――ある意味、主体的なのかもね。自分で歩いて、見て聞いて感じるものを大切にしてるというか。スタンプラリーとかって、いってみれば与えられたものを消費してるのかもしれない。
そう。日本人って、効果をすぐ求めたがるのかな。
―――「森に行ってきたよ」って言ったら「何があるの? そこで何するの?」って聞かれるような。
「何が得られるの?」とかね。
―――子どもたちはどういう反応だった?
けなげについて歩いてたよ、2時間。「これがオランダの人たちの楽しみ方なんだ」って、なんとなく感じたんじゃないかな。
そうだ、トイレもなくてねー。日本だったらさ、森の中でもあちこちにあって、絶対ガイドさんも頭に入れてて、「ここだったら借りれます」とかあるじゃない? ないからね、全然。
―――それ、どうするの?! ホントに。
2時間かかるってわかってたから、事前に何回も行かせて、大丈夫だったけど。今回の旅、トイレ問題はけっこうあったよ。お金もかかるしね。
―――ん? 有料なの?
駅のトイレも、1回につき0.5ユーロかかるんよ。お店にもトイレないことしょっちゅうあるね。マックとかでも。
―――私たちがそれ聞いたら「えーっ?!」て思うけど、逆に外国の人が日本にきたら「えーっ?!」なんだろうね。なんか、むやみやたらにトイレがある国だなーって。
◆旅はスリルとアドベンチャー(とケンカ)でいっぱい!
そうそう、空港とか、厳戒態勢なんだよ。日本の警察みたいなささやかなピストルを内側に持ってるんじゃなくて、すごい長い銃をみんなこうやって(両手で上に掲げ持つ)持ってるの。
―――おお、ドキッとするね。
実際にブリュッセル空港でテロもあったからね。平和への意識っていうのかな、全然違うよね。
―――日本人もいろいろ考えなきゃいけないんだろうけどね。
2週間の旅行中には、トラブルとかアクシデントはなかった?
あるある、しょっちゅうある。もうねー、まずブリュッセルの空港に着いたの昼の3時なのに、レンタカーに乗り込んだの5時だよ。
―――うわーっ。
ナビがついてないから空港でwifiのSIMカード買おうとしたら、売ってる店がお休みなんだよ。日曜日で。日本で、空港の店が日曜午後に休んでるとかありえないでしょ?! もうさ、10何時間もフライトして、やっと着いて、よかったーって思ったら、子ども4人連れて、スーツケース3個とか持って空港をぐるぐるぐるぐる歩いて…
―――つ、つらい!
やっと車に乗っても、反対通行だしマニュアル車でしょ、「スタート、はいストン」ってエンスト(笑)。ダンナが運転して私がナビするんだけど、地図もめちゃくちゃ見にくいし、高速道路も、さっきの森の話と同じで、あんまり看板がないんだよね・・・。
なんとか泊まるホテルの近くまで来て、パーキング見つけようとしても、旧市街だから道が細くて、一方通行で、ぐるぐるぐるぐる・・・。見えてるのに曲がれない。
―――子どもたちは?
その頃にはもう疲れて、後ろで寝てた。
―――よかった。寝ててほしい(笑)。
最初はすごく心配してたけどね。がたんがたんエンストするしさ(笑)。
(ちひろ)家族でそういう経験をするって大事ですよね。アドベンチャーっていうか、スリルがあって。
もう、全然うまくいかないんだ、ってわかると思う(笑)。
―――でも、最後には何とかなる。なせばなる!
そうそう、自分でがんばればなんとかなる(笑)。
―――そういうアクシデントのとき、ダンナさんは、イライラしたりしないの?
すっごくする!
―――わーっ。そうかぁー。
だからもう、大げんかだよ、2人で!
―――そうなのか(笑)。
もう、やりたいことは全部やりたい、家族と一緒にやりたい、って人だからさ・・・。
―――キャンプとかもハードそうだもんね。
そうなのよ。何でも家族と一緒にやりたい人だからさ、子どもが少々具合悪くても、「大丈夫だろ」とか言って連れていく。
前もさ、1月の始め、寒ーい時期のキャンプで、1人がお腹が痛くなっちゃって、夜中に寒ーい中おむつを替えに行ってさ、おトイレの電気がつかないからパパを叩き起こして電気を持たせて、子ども抱いてトイレに入って、「拭けたかー」とか言ってさ・・・寝袋も汚しちゃってさ・・・
―――ぎゃーっ。つ、つらい!
夜中にそういうことやってて、起きて朝ごはん食べてたら、ゲーゲー吐き出す子が2人・・・。
―――べ、別の人が?
そう。食中毒だったみたい。だから帰り道はさ、テント道具を後ろにいっぱい詰めてぎゅうぎゅうの車の中に、元気な子が1人、お腹痛い子が1人、ゲーゲーの子が2人、その看病で疲れてる私、みたいな(笑)
―――あはははは。いや笑いごとじゃないよね(笑
◆家族で世界を見て、触れて
ほんっと、家族を連れまわすからね。もう、毎回ケンカだよ。
―――面白いね。なんかこう、ダンナさんについて行くけど従うわけじゃなく、ケンカもして(笑)。
主張しないと通じないのよ。言いたいことは言わないと伝わらない! 以心伝心なんてないな、って結婚してしばらくして気づいた(笑)。
―――いいと思う! 黙って受け容れるんじゃなくてさ、夫婦は対等なんだから、言いたいこと言い合って、折り合っていく姿を子どもに見せるのも大事じゃない?
子どもに見えないところでやればいいんだけどね、もう緊急事態の連続だから(笑)。
―――子どもたちもいろんな経験して強くなりそう。
丈夫になるよね、虫がいてもトイレに入れたりとか(笑)。
―――「懲りずに」というと言葉は悪いけど(笑)、いろんなトラブルがあってもまた行くってことは、しんどさ以上の価値があるんだよね。
やっぱり家族でやるのは価値があると思うよね。もうほんと、思い出がぼろぼろと(笑)。
オランダでも、基本的に親が行きたいところに行くからさ、大きい子たちは「なんで私たちが行かないかんと? パパの友だちの家やけん、パパだけ行けばいいやん」とか言ったりするんよね。
―――あー、そうだよね。
でも、普通、旅行ってホテルに泊まってごはんもお店で食べて、現地の人と話す機会なかったりするじゃない。でもパパの友だちの家に行ったらさ、そこの家にも子どもいるから、ごちそうしてもらって、子ども同士で言葉がわからないながらも遊ぶ・・・そういう経験っていいんじゃないかなって私たちは思うから、連れていくんだけど・・・
―――すごくいいよね。その良さが、今はまだ子どもたちにはわからないかもしれないけどね。
「あの家でこういうことしたね、日本とはやり方が違うよね」って気が付いたりね。
外国に知ってる人がいると、ニュースを聞いたときとかも、とらえ方が違うと思うんだよね。より身近に感じるというか。
(オランダ旅行中、農場のワークショップで子どもたちが作った作品。もちろん羊毛です!)
(オランダから買って帰った糸車たち。古いほうは約40年前、オランダに住んでいる時に入手したもの)
(お部屋のいたるところに羊のモチーフが)
◆手をかけて、工夫する暮らしを
―――アンケートに「家事が好き」って書いてあったよね。「ママじゃな」のモデルさんの中でも珍しいかも・・・
そうなんだ? 家がきれいになるのって、目に見えるからうれしいよね。手をかける意義があるというか。主婦の仕事って、やってたらどんどん上手になるしね。
―――料理も好き?
うん。でも料理はまだ全然。こういうおもてなしするのもさ、センスのいい人はすばらしいよね。
(ちひろ)えー、これ最高だよ! お皿もすてきだし。
(オランダの農村の伝統的なお料理、エルテンスープとトマトスープ、ハード系食事パンを添えて。エルテンって、えんどう豆です♪ すっごく美味しい!)
いやいや、もっと人を見習いたいよ。
家事は、うまくできてるかはわからないけど、イヤじゃないんだよ。次はあそこをこういうふうにしたい、とか考えるのが楽しかったりする。
ダンナも自分で何でもやりたい人だからさ、あの台所の扉も自分たちでつけたの。ホームセンターに行って木材買ってきて、ドリルで穴開けて・・・。楽しかったよ。どの木がいい?って選んだりして。
―――義務感でやるとつらいけど、自分の暮らしを好きなようにカスタマイズするのって、本来、楽しいことなんだろうね。
どうやったらできるかな?って考えたりね。これは難しいけど、どうしたらやりやすいかな?って工夫したり。
―――むっちゃんって、すごく真面目だよね。
そう! そうなの。私、真面目なの(笑)。
◆大人になったら、楽になった
―――むっちゃんに書いてもらった事前アンケートを見ると、全体的に、充実感とか肯定感をすごく感じたんだよね。
(ちひろ)あー、わかる!
―――物事の捉え方もまっすぐな感じがして。
まっすぐかどうかはわからないけど、ぽわーんとした子だったのよ(笑)。こんなに喋る子じゃなかったし。
だから人の悪口とかは言わなかったけど、今思えば、あんまり人のこと見てないから、悪いところにも気づかなかったのかも。
―――強いほうだったと思う? 精神的に。
いやー、ものすごく動じるよー! くよくよもするし・・・。
―――でも、やっぱり今のほうが逞しくなったかな?
生きやすくなったなあと思う。どこにも所属しないでいい、無理しなくていい、っていうか。悪口を言う人とは距離をおけばいいんだ、って。
小さいときは、この空間イヤだなって思いながらそこにいた、とかあったけど、今はそこからすーっと離れる知恵だとか、あるでしょ。だから大人になったら楽になったと思うな。
今、子どもが「こういうことあった」ってメソっとしてたら、「あー、そういえば、昔こういうことあったな、どうすればいいかわかんなかったな」って思う。
(ちひろ)小さい頃って、酷だよね。クラスがすべてみたいなとこあるし。だから、小さい頃から海外を知ってるっていいですよね。
世界はここだけじゃない、ってことは知っておいてほしいかな。行きたいところに行っていいんだ、ってことをね。
私は大人になってから思ったけど、子どものときからそう思っていいと思う。無理することないんだ、って。幸せになっていい、っていうか。
◆今ならもっとできるはず
―――図書館の司書になりたいっていう気持ちは、学生時代からあったんだよね?
中学の頃から、図書館で働きたいなーとは漠然と思ってた。地元(長岡市)では、図書館バスが楽しかったの。バスの車内に棚がずらっと並んでて、本を満載して市内を巡回するの。
―――福岡では聞いたことないね、図書館バスって。
うん。ステーションが決まっててね、毎日違うコースでいろんなところに行くの。来てくれる人の顔も覚えてて、「あの人はこういうのが好きだろう」って本を乗せて行ったり。
―――面白い!
小学校に行くコースのときは、『かいけつゾロリ』を多めに持って行ったり。小学校で「お話会させてください」ってお願いして、やったりもしてた。
―――すごく積極的に働いてたんだね。
今思えば、よくやってたよなーって。そんな実力もなかったのに(笑)。
―――本の仕事が好きで一生懸命だった証拠だよね。結婚して福岡に来てからも、図書館に務めてたんでしょ?
そう、履歴書持ってね、「私は図書館で働いていたので、経験があります。ぜひ雇ってください」みたいなことを(笑)。
―――すごい! 募集してないのに?
募集してないのに(笑)。
―――飛び込みだね。
押し売りだよね(笑)。
―――それで採用されたんだから、すごいよ!
すごいよね、たまたまだろうね(笑)。
―――情熱が通じたんだろうねー。本当に、本のお仕事が好きなんだね。
今も、小学校で読み聞かせとかやってるんやろ?
やってるやってる。今、子どもが6、4、1年生だから、入れるときは全部入ってる。
―――楽しそう! 小学生への読み聞かせ。
6年生は大人だからねー。笑わないよー。
―――ちょっと冷めた目で見てるんだろうね。
そうそう。冷や汗たらーってなったりするけど(笑)。
でも自分の子が6年生で、家で見せる表情もわかってるからね。家の顔と学校の顔、ちゃんと使い分けてるんだな、みんなもきっとそうなんだろうな、って思えるから、安心できるのよ。
(ちひろ)子供の成長とともに、ますます広がるね。
―――アンケートにも、「(図書館の仕事について)今だったらもっといろんなことができると思う」って書いてたよね。ほんとにそうだと思うし、すごくいい考え方だなと思った。
私もそうだけど、仕事を長く離れてると自信がなくなったりするやん? でも、年齢を重ねて経験が増えたり、若いころはわからなかったことがわかったり・・・できるようになってることも、いろいろあるはずだよね。
私が図書館で働いていたときは、自分に子どもがいなかったからさ。今は、子どもがどういう動きをするかもわかってるから、いろいろ工夫もできると思うんだよね。
―――むっちゃんは、学生時代はどういう本が好きだった?
私ね、読むという行為は好きだったんだよ。でも、何も知識はなくて、表紙とかで選んでたから、身になる読書はできてなかったかな。今思えばね。
―――ああ、私もそうかも。
文学みたいな面にはなかなか触れられないんだな、っていう実感があるね。図書館員になってからもそう思った。子どもって、本棚に行っても、その子が求めてるものにはなかなか辿りつけないんだなって。
―――そうだねー。ほんと、そうなんだよね。たとえば岩波少年文庫とかでも良いものはいっぱいあるけど、子どもがタイトルと表紙を見て、自分が面白いと思える本を選ぶのって難しいよね。
選びきれないんだよね。本棚の前で、どうしようかなどうしようかな、って悩んでる子をよく見るけど、自分もこうだったなーと思うんだよね。
だから、自分でもこれからもいろいろ読んで、「こういう本、どう?」って薦められるようになったらいいなと思う。もっと勉強したいね。
(おわり)
(むっちゃんのキッチンの壁には何年も前にかいてくれた子供たちの絵、大きくなったらなかなかこんな言葉のお手紙は書いてくれなくなるそうです。なので大掃除してもまたここに張るのだそうです。)
【編集後記】
インタビュー:イノウエ エミ
オランダのおみやげ話を聞きながら、おいしいエルテンスープとパンでランチ・・・心躍る時間でした! オランダの食事や、にせアカシアの木の話、スケートリンクなど、記事で紹介しきれなかったエピソードがたくさんあります。むっちゃんのお友だちは、ぜひご本人から聞いてくださいね。数々のキャンプやイベントなど、一家での強行軍の話も! 人生はアドベンチャーですね。ダンナさんのほうにもお話を聞いてみたいです(笑)。
子どもを見ていると、「自分もそうだったなあ」と思い出してきゅんとする気持ち、わかります。子ども時代は楽しくて、でも時に窮屈でつらかった。子どもが成長すればするほど、親が直接的に助けてやれることは少なくなるかもしれないけど、「大丈夫だよ、自分の気持ちを大事にしていいんだよ、大人になっても楽しいこといっぱいあるし、大人のほうが楽になるよ」と伝えたい、親のそういう姿を見せたいなと思います。
飾らない笑顔で生活を楽しんでいるむっちゃんがすてきです。知り合ったばかりなのにこんなに楽しくリラックスした時間が過ごせて、やっぱり大人は楽しい!
撮影:橘 ちひろ
むっちゃんとは幼稚園で出会いました。熊本への支援チャリティマルシェで写真屋さんをしたときに撮らせていただいたのです。しかも確か朝一番のお客様・・・!100円、寄付金とはいえお金をいただいて写真を撮ったのは初めてのことで緊張して撮りました。
それ以来「むっちゃんって呼んでね」とか、いつも気さくに声をかけていただいて・・・なんだか知るごとに大好きになっていくむっちゃんです。この間共通の知り合いと話している時に「あれ!?なんかちひろちゃんはむっちゃんに雰囲気が似てるね~」と言われてすごくうれしかったです。今回のインタビューも共感するところがたくさんあって(もちろん人としての経験値や成熟度は全く持って違いますが💦)心の底の基礎のあたりが少し似ているのかもなぁと思いました。ほっとするのです。
私昔から羊に似ているってよく言われていたし・・・。いや、関係ないかな 笑
写真はそんなむっちゃんとむっちゃんをとりまくお部屋の雰囲気を出したくて試行錯誤しました。そして私はむっちゃんが冬服コーデが大好きなので冬の公園へ。強風の中でしたがバタバタと・・・。全体的にまとまり切れなかった余韻を残す感じは断然『良きことと』してUPしたいと思います。