vol.30 高橋加央里 の 「ママじゃない私」ポートレート
もうすぐ3才の長女ちゃんと1歳半の次女ちゃん。年子の2人のママの加央里さんです。小柄で童顔で、子どもたちを連れて外に出ると「年の離れたお姉さん?」とか「あなた、何歳で産んだの?」とか言われることもしばしばなんですって。でも見た目の可愛らしさとは裏腹に、とってもしっかり、とっても強い! そのギャップがクセになる!! ・・・と思うインタビュアーのエミです(笑)。
◆私、緊張しないんです
―――加央里さんは、アナウンスをはじめとして大きな舞台の経験が多いと思うんですけど、そういうときって緊張しないですか?
小さい頃からレポーターのまねごとをしたりするのが好きな子で・・・特に緊張したことがないです、今まで。
―――え、ほんと?! 全国大会とかいっても?
むしろ、ぞくぞくします(笑)。
―――やっぱそういう人っているんだねー。ほわー! 緊張しがちな人にアドバイスってありますか?
やっぱり自信がないとどうしてもあらわれるんですよね。だから1つ芯を持つというか、軸をもって堂々とできること。
―――それが難しかったりするんですけどね・・・。だから練習も大事なんですね。
やっぱり練習量がものをいうので。アナウンスも、第一声でわかるんですよ。いろんな原稿を読んできた子ほど、いろんなことに対応できるので自信をもってる。
―――なるほどー!
◆夢のはじまり
中学生の時、プロのアナウンサーにマンツーマンで教えてもらう機会があり、表現することの楽しさや難しさを知って夢中になった加央里さん。「アナウンサーになりたい」夢は一つにさだまりました。
―――書いてある原稿をただ読む、ただ滑舌よく、ただ美しい声で…じゃなく、“表現”を知ったんですね。
そうですね。乙武さんの『五体不満足』を課題として読んでいて。どんな思いで乙武さんが書かれているのか? それを聞き手に伝えるにはどういう読み方の工夫をすればいいか?と。ただしゃべることが好きだったんですけど相手に伝わらないと意味がないんだな、そういうスキルを磨きたいなと思ったのがアナさんとの出会いでした。伝える力ってほんと大事なんだなーって。
―――乙武さんの思いを想像して読むのは、中学生にとってはなかなかハードルが高いですよね。
ただ元気よくハキハキしゃべってるだけじゃダメなんだ、っていうのが衝撃でしたね。情景を思い浮かべたうえでの声のトーンとか、いろんな工夫がいるんだなあって。
―――そのアナウンサーさんは、何歳くらいの方だったんですか? 当時。
何歳ぐらいだろう・・・シニアに近いぐらいの。
―――じゃあお母さんより年上だ。「女性としても人間的にもすばらしい方」とアンケートに書かれていましたが、中学生の少女がそれぐらいずっとずっと年の離れた方にあこがれるっていうのも、ある意味すごいですね。
サインをいただいたんですけど、「出会いに感謝」って書いていただけて。それが私の座右の銘のようにもなってます。
―――わー、すてきですね。娘より若いような年の子にそれを書いてくれたんですね。
◆負けず嫌いで、グループは苦手
―――子どもの頃はどういう子でしたか?
父がけっこう厳格でしっかり勉強させたいという感じで、通知表でも「大変よい、よい、がんばりましょう」の中で「よい」だとちょっとダメ、みたいな。だから優等生キャラでした。小学生までは。
―――おおー。
でも父がそんなだったから、負けず嫌いになったのかな、と思います。
―――お母さんは?
母はのびのび育ってほしい、と。優しい人で、何でもすごいすごいと褒めてくれて。極端なんですよね(笑)。
(ちひろ) 二人は仲良かったですか?
良かったですね。だからこそ対照的だったのかな。子どもに対して役割があったのかもしれないですね、それぞれ。
―――アナウンサーをめざして、放送部が強い高校に入ったんですよね。
面接ですごい熱意を語って。「私は放送部をもっと強くして、全国大会に導きます」みたいに。
―――すごーい! すごすぎる!!! まだ入ってないのに。受かるかわかんないのに!
(ちひろ) そういうの、すごいいいと思う! だって言わなきゃ始まらないもん。
―――もう合格! 合格です!
はい、それで、合格いただけて、父とも握手して(笑)。
―――「全国へ」とかさ、口先で言っても相手に響かないですからね。本気で思ってて、本気の熱意で言ったんでしょうね。
かなりハッキリした性格だと思うけど、女子同士の人間関係とか大丈夫でしたか?
私、グループが苦手で、一対一で話すのがいちばん楽なんですよね。だから、親友と2人で自由に行動する感じでした。
(ちひろ) 賢いよね。普通、あんまり考えずに何となくグループに入っちゃうもんね。
―――無意識かもしれないけど、自分らしくいられるところをちゃんと選んでたんですね。えらい。
◆アイドルとバーテンダーと教育実習と
―――大学時代、門司港レトロのマスコットガールをやってたって・・・ローカルアイドルっていう位置づけになるんですかね。
ローカル的なアイドルって感じですかね。ステージでたまたまアニメソングを歌ったらお客さんがすごいわいて、「君はこの路線で」って言われて、一応、CDまで出させてもらって。カメラ小僧さんみたいな人たちがイベントに来てくれるようになったりとか。
―――えー。ソロで?
はい。CD屋さんにちょっと置かせてもらうのと、イベントで売る程度ですけど。
―――アニソンを歌うのは抵抗はなかったですか?
全然! 歌は何でも好きなので。演歌も大好き。老人ホームいったら演歌を歌ったりとか。
―――あ、そういうところにも行ってたんだ。
そうなんです、そうなんです。いろいろ経験させてもらいました。イベントで司会をやったり、ローカルFMで番組を持ったり。
―――アイドルって、いわゆる偶像じゃないですか。注目を浴びるのは、楽しい反面、違和感とかなかったですか?
目立ちたがりだったから、うれしかったです(笑)。マナーとかもちゃんとした方たちだったから、怖いこともなかったし。「固定のファンを増やしたい」というのは、営業になってからも役立ったかな。
―――アイドルやりながら、バーテンダーのバイトもしながら、さらに教職課程までとってたとのことですが・・・めちゃくちゃ忙しかったのでは?
今思えばどうやってスケジュール組んでたのかなって思うんですけど、やっぱり充実してて、楽しかったですね。
―――で、すごく面白いのが、中学時代からずっとアナウンサーを目指していたのが、アナウンサーの試験と教育実習の日程が重なったとき、迷わず教育実習を選んだっていう。てか、アナウンサーをめざしてる人が教職課程をとること自体、そもそも大変ですよね。単位も多いし。
そうですね。父から「英語の教員免許をとれるようにがんばりなさい」って言われてて。せっかく県外の大学に出してもらったし、それは自分の中での決まりごとにしてました。
―――そして、広告代理店の営業職に・・・。
歌うのが好き、アナウンスが好き、アイドルもそうですが、「自分」が注目を浴びるポジションから、「お客さまのために」という職業につくって、すごいシフトチェンジですよね。
そうですね。大学時代も高校生にアナウンスを指導したりとかしてたんですね。イベントでMCをさせてもらうにしても、
テレビ局の中で働くだけがアナウンサーじゃないんだな、こういうかかわり方もあるんだなと思ったり、いろんな人に会う中で、リクルートのDNAってすごいな、みなさん人柄もすばらしくて・・・
―――だんだん、自分が前に出るっていうより、人とかかわって人のために役に立つ、そっちのほうにシフトしたんですね。
◆営業だからって、すぐに売りつけたりしません
―――求人広告の営業をやってたんですよね。大変なお仕事というイメージですが。
企業に飛び込みなり電話がけなりして、求人を出したい企業を見つけて訪問して、「どんな人がほしいですか?」とか、「おたくの会社はどんな会社ですか?」とかいろんなことをヒアリングするんですね。で、営業が聞いてきたことを社内の製作スタッフが原稿を起こします。
―――なるほど、実際に原稿を書く人は、企業さんとはコンタクトしないんですね。
だから、営業のヒアリングがすべてなんですね。
ただ「時給いくら」「高収入です」と書くだけでは会社の魅力が伝わらないので、そこでどんな人が働いていて、社長の経営理念はどうなのか、みたいなそこが大事なんですね。同じ飲食店でも思いが違えば集まる人も違う。それを限られたスペースでどう表現するか・・・。
―――この小さな枠の中に写真を1枚だけ載せるとして、お料理か、店内の内装か、スタッフさんかでもずいぶんイメージ変わりますもんね。
(ちひろ) ぱっと見たとこで勝負だもんね。
ほんと、新卒で入ったのにすぐ経営者に会える、話が聞ける仕事って、すごいなと思って。本当に面白くて。
―――逆に、経営者のオーラとかキャリアとかにのまれちゃって喋れない、提案なんてできないって人も多いと思うんですよね。それを楽しめたっていうのがすごい営業向き!!
私、「とりあえず食事行きましょう」とか言うんですよね。
―――すごーっ! 自分からお客さんに言うの? 新卒で?!
タウンワークの営業って、福岡に何百人といるんですよ。その中で「私を」って思ってもらえるのが大事だと思ったから、とにかく数字を上げるというよりは、まずは打ち解けようと。「仕事疲れたから、○○さん、ちょっとドライブいきましょう」とか。
―――すごすぎる・・・!
営業営業ですぐ売りつけるんじゃなくて、まず私のことを知ってもらって食事でもして打ち解けて、「どんなことをお悩みですか?」って聞いて。
一年目からそんなことやってたから、なかなか売り上げにはすぐにはつながらないんですね。
―――あら、そうなんですか?
それを1年、2年と続けていくと電話がかかってくるようになるんですよ。
―――ほーーーっ!! なんかすごい話聞いてる! 勉強になります!!
◆「こんな生き方もあるよ」「こんな人もいるよ」って
2015年、16年と続けて2人の娘さんを出産した加央里さん。
今はフリーランスとして、アナウンスなど声に関するお仕事のほか、大学生の就職活動を支援するお仕事も始めています。
―――フリーランスって、マイペースで、子育てしながら続けやすいかもしれないですね。
はい。やっぱり、子どもには余裕をもって接したいなと思って・・・。
今までは「人を採用したい」企業さん目線で仕事してたけど、今は「会社に入りたい」学生さん目線で動いてる。どっちの思いもわかる。すごく面白いなと思って。
―――両方わかるのが、すごい強みになりますね。今の大学生はどんな感じですか?
うーん。とても素直なんだけど、慎重な子が多いなと感じます。
―――守りに入ってるんですね。今は人手不足で売り手市場なのに。
ネームバリューがあって、安定した企業に入って・・・という志向の人が多いんですが、その先が見えないんですよね。「どうしてこっちの会社じゃダメなの?」と聞くと「わかりません」って。
―――まあ、言ってみれば、学生の頃って世界がごく限られていて、学校と部活と塾しか知らない、その中で職業を選ぶって、けっこう無理があるんですよね。
そうなんです。営業を目指してる学生に私の話をすると、「営業にもいろいろあるんですね、社会人になる前に聞いてよかったです」って言ってくれたり。
「職業はこれ」と決めてしまって、そこを目指すだけじゃなくて、「こんな生き方もあるよ」「こんな人もいるよ」って提示してあげたいなと思います。
―――そういうことを教えてくれる人と巡りあえるってとても幸せなことですね。みんなにそういう機会があるような教育になるといいんでしょうが。
子どもにも、習い事とかをたくさんさせるよりも、いろんな人に会わせてあげて、「こんな人みたいになりたいな」って思えるような教育をしたいんです。
―――それ、菅田将暉のお父さんの教育方針と同じですよ!! (←菅田将暉大好きのインタビュアー エミ(笑))
加央里さんは、自分の思いを表現して伝えるという経験が豊富ですが、今までそういう経験のなかった学生さんにアドバイスして、変わりますか?
3か月ですごく変わります。どきどきして、深呼吸を繰り返して「(スーハー・・・)すみません・・・」って言ってた子が、すごく自信をもって、笑顔で話せるようになりますよ。
―――すごい! 私にも教えてほしい。
◆ダンナさんの前では、甘えんぼの妻でいたい
―――ダンナさんとは、どういうなれそめで・・・
アタックされました、当時は(笑)。「ごめんけど俺、貯金もないけどいいでしょうか」みたいな感じです(笑)。
すごいアクティブで、突発的に「鹿児島行こう!」って言いだしたり・・・面白い人なので、お金がなくてもこの人とだったら楽しいだろうなあと。
子どもができてからはもう、私なんかより娘たちにデレデレで・・・。
―――ダンナさんは、自分で起業されてるんですよね。
会社のHPでダンナさんのプロフィール拝見したらすごく面白くて。
新卒で入った不動産会社で営業してたけど、遅刻したりけっこう適当にやってるんだけどなぜか営業成績は良くて、『25歳で「おれ、できる子だ」と気づく』とか書いてあって(笑)。
(『こち亀』の)両津勘吉みたいな人で(笑)。私そういう人が大好きで、めちゃくちゃなんだけど人情味があふれてる、みたいな。
―――経営者としては、どういうリーダーだと思いますか?
一人ですごくがんばるタイプ。なんでも屋みたいな。会社は自分の分身みたいなもので、従業員も大事な家族だと思ってる人で、私は彼を支えたいなって思ってます。
―――自分で立ち上げた会社を10年続けるって、ほんっとうにすごいことだと思います! 10年続かない会社のほうが絶対多いです。営業ができるからって簡単に経営もできるわけじゃない。すごくご苦労もあるんじゃないかと思いますが。
基本的にあんまり愚痴は言わないんですけど、ポロッと出ることはありますね、「どうしたら(従業員は)定着するんやろうね」とか。
―――ちなみに、ダンナさんは、加央里さんのどこを好きになったんですかね?
どうでしょう・・・。たぶん見た目の感じで、「優しい家庭的な子」って思ってて、結婚してから「まずった」って思ってるかも(笑)。
―――え、そんな(笑)。
「家のことお願いします」みたいな感じだったかも。
でも、私が「働きたい」って言ったら、「それは全然まかせるよ」って。会社を退職してフリーになったときも、びっくりはしたみたいだけど反対とかは全然なくて。
―――すごい。なにげにすごいことだと思います!
ダンナさんもやっぱり、加央里さんのエネルギッシュで負けず嫌いでやりたいことがいっぱいあるみたいなとこは、わかってるんじゃないですか? facebookでもつながってるし・・・。
私、そういうとこ出さないんですよ。ダンナには、甘えたい妻でいるので(笑)。
―――そっかー、ダンナさんにはそういうのを求めてるんですね(笑)。どう思ってるのかなあ、ダンナさんにも話を聞いてみたいですね(笑)。
ダンナにもインタビューしてもらっていいですか?(笑)
―――したい、したいですー!
「社長じゃない私」で(笑)。
―――イイ!(笑) OKしてくれたら、ほんとに行きますよ(笑)。
(おわり。)
【編集後記】
インタビュー:イノウエ エミ
取材の前に、加央里さんが詳しいプロフィールを書いて送ってくださったのですが、それがもう、「あれ? いま私、ベストセラーになった小説読んでるのかな?」ってぐらい面白くて!
インタビューからもわかるように、自分の思っていること、こうしたいという熱意をハッキリ言葉にできる加央里さん。ほんとに気持ちいいです。かっこいいです。実際に行動に移せるのもすごい!
一方で、ダンナさんに対しては、甘えたい♡ デートしたい♡ 娘たちに嫉妬しそう♡ っていうスイートな感じがまたおもしろいんですよね。5年、10年後の加央里さんどうなってるんだろう~!
「ママじゃな」では加央里さんの声をお届けできないのが残念! 録音を聞き返していると、加央里さんはごく柔らかくナチュラルにしゃべってるけど、ものすごーーーーーく心地よく、聞きやすいんです!! 声のプロってこういうことかー!と感じ入りました。
写真:橘 ちひろ
久々のママじゃな取材、加央里さんに感心させられっぱなしでした。
はじけそうな若さと芯から可愛いらしい趣味、でも話はすごく現実的でしっかりとしていて、そのギャップに、何を撮ればいいのか迷いましたが、もうそのまま撮るしかないなと、少しづつタイミングをずらしながらナチュラルな彼女を映し込んだつもりです。
これから30代のびのびとたくさん楽しんでほしいです。そして年と共に更に更に洗練されていくことを思うと本当に楽しみ(^^♪
またお会いできますように。加央里さんありがとうございました!